むぅ

麒麟がくるのむぅのレビュー・感想・評価

麒麟がくる(2020年製作のドラマ)
4.3
それはそういうホトトギス

5時間もメガハイを飲み続けていたら、何故我々はこんな事を真剣に議論しているのか、となる事はある。
信長・秀吉・家康の中で誰に共感するかという話をしていた。
「それで出世出来るなら喜んでわらじあっためるわー」
「そもそも天下取りたいと思ったことないんだわー」
お互い常連だったバーで知り合い、驚くほど気が合うその友人とは仕事におけるスタイルが違って面白い。多少のリスクがあったとしても突撃するタイプのその友人と、極力リスク回避な私。
あちらが上司、私が部下ならば最強だけど、逆ならまぁまぁお互いにストレスだろうというのが共通認識。
「確かに!鳴かせてみせる的な事よく聞くわ」
天下取りに興味のない私は"秀吉殿"にそう申し上げ、どうしてウーロンハイのメガはないんだろうと思いながら全員分のメガハイを勝手に注文した。
これは明日は二日酔いかもと思いながらの帰り道、「鳴かぬなら」で一句と言われたらと考えていて電車を降りる直前にやっと思いついた。

それはそういうホトトギス


明智光秀ならどんな句になるのだろうか。


[本能寺の変]
それまでの明智光秀の人生を描く。
そんなわかりやすく謀反せんでも側近なんだから、サクッとバレないように毒殺しちゃえば良かったのでは?と、ことを起こすならば成功させたい私は思っていた。
でも、なるほど。
泰平の世に来るという"麒麟"を夢見る明智光秀。
この人なら麒麟を連れてくることが出来るのでは、と"かける"人物が斎藤道三、足利義昭、織田信長と変わっていく。
自分で麒麟を連れてきてやる!とならないところに共感してしまった。光秀、わかるよ、まさか自分にその度量があるとは夢にも思わないんだよね。

「この人と働いてみたいという観点から選ぶのも一つ」
大学1年、演劇サークルのどのセクションに入ろうかと悩んでいた私に当時の主宰がそう言った。
そっかぁ!脳内お花畑だった私は、この人と働いてみたい=カッコいい先輩と非常に短絡的な解釈をし「素敵!」と思った先輩がチーフの制作というセクションを選んだ。結果、他のセクションのサポートをするマネージャー的要素は得意で、戦略を練るプロデューサー的要素は苦手だという事を学んだ。この経験は大きかった。
おそらく、光秀にもそんな所があるのでは。
制作に入った2週間後、カッコいい山下先輩には部内に彼女がいる事を知り撃沈した私と同じにされたくはないとは思うが。


染谷将太の信長が素晴らしかった。
この人物をこう描くのか、というのが大河ドラマの一つの魅力であると最近知った。だとしたら私は今後信長はもうこの信長がいいと思うほど魅力的だった。彼の根底にある承認欲求が次第に形を変えていく様は見応えがある。
ルッキズムが払拭出来ない発言になるが、いわゆるイケメンが演じがちな信長や小柄な人の印象がある秀吉を、そうではない役者が演じてるのも面白い。
そしてコロナ禍最初の大河だった今作、何かもうそれは"殿"との距離ではなく"帝"との距離では?もっと近う!と思うくらいに上座と下座で距離が開いているのが地味に面白かった。
どちらかが小声だったら会話が成立しない程の密じゃない距離。ゆえに役者の発声と滑舌が如実に現れる。途中[発声・滑舌番付]を作ろうかと思うほどであった。
風間俊介の家康も良かった。
この人何でも出来るよなという安心感と、どうしても思い出してしまう彼の演技の中でも印象的だった『それでも、生きてゆく』のせいで、何かするのでは?といつも思ってしまうが。


「江戸時代から帰って来れないどころか、遡ってるじゃないスか」
大奥!大奥!騒ぐのをやめ、この明智光秀の天下を見てみたかったという話をしていたら、そう突っ込まれた。
本音を言ってくれる部下というのは本当に大切と学んだ今作であったので、こちらも本音を言う事にした。
「佐々木蔵之介の秀吉、良かったよー。秀吉には興味ないけど佐々木蔵之介には興味ある。ちなみに今日(2月4日)佐々木蔵之介誕生日。これで佐々木蔵之介は磯野波平の一個上になりました」
「っス」
「あ、後、戦国武将にはリーダーシップだけではなくマネジメント能力も必要だと学びました」
「本当、真面目なんだか不真面目なんだかわかんないとこあるっスよね」
「人はその一面では判断できないのだよ」
「どうせ今日佐々木蔵之介の誕生日を理由に氷結無糖飲むんスよね」
「わかってるね。きみが明智光秀だったら三日以上天下取れたかもだね」
「俺が明智光秀なら先に佐々木蔵之介から殺るっスね」
「秀吉って言って?」
この"っス"を私が信頼しているように、いやそれ以上に信長は光秀を信頼してたんだよなと思いながら帰りに氷結無糖を買った。
むぅ

むぅ