トケグチアワユキ

書店員ミチルの身の上話のトケグチアワユキのレビュー・感想・評価

書店員ミチルの身の上話(2013年製作のドラマ)
5.0
突然思い出したので、観かえすこともなく、おぼろげな記憶だけで絶賛してみる。

戸田恵梨香は薄幸そうな地味な役であればあるほど、存在感が際立つ。
そう見るようになってしまったのは、このドラマで彼女に出会ってしまったからなんだろうと思う。

共同購入だったか、誰かの代理だったかで宝くじを買うところから始まるんだけど、そんなことより、学校への教科書販売で事業が成り立っているとしか思えない田舎の本屋で、真っ当に生きるという選択肢しか与えられないまま生きている主人公ミチル(名付けに毒があると思わないか?)は、1等の当たりくじを手にしたことで生まれて初めて後ろめたさと言う自由を手に入れるのだ。

いいハナシだ。私はそう思う。
良心と倫理の元、正直に生きることこそ人の道だという考え方も否定はしない。
しかしそれがたとえ人の道から外れていようとも、私は選択肢のある人生を歩きたい。

幸福とは何かは人それぞれ違う。
他人からは将来の転落と不幸がありありと想像できたとしても、人はその選択肢を選び他人の想像どおり不幸になる権利を持っている。
それが自由だ。

このドラマの主人公ミチルも過去をすべて消し去り、まったく新しい人生を歩もうとして流転する。
後ろめたい行動の代償は大きいかもしれない。
が、それでもその後ろめたさを抱えて生きていくのだ。
美しい。
これこそが美しい人生だ。

ミチルは最後に結婚する。
この結婚が暗示する恐ろしい未来を、ドラマを観ている私は想像できる。
でも黙って観ているしかない。
フィクションだろうが、現実だろうが、黙ってその余韻にうっとりと浸るしかないのだ。

結論などいらない。
物は壊れる、人は死ぬ。そういうもんだ。