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元カレのrumblefishのレビュー・感想・評価

元カレ(2003年製作のドラマ)
4.5
東次が優柔不断というかはっきりしない男で、剛くんじゃなかったら見なかったと不興を買っていた作品。

でも、自分は傑作と思っている。
なぜ東次はああいう性格の人物にしなければならなかったのか、ちゃんと理由があったと思う。

本作は学生時代に付き合っていた男女が仕事に対する考え方の違いから就活中に別れてしまい、社会人となって再会するところから話が始まる。
真琴はキャリア志向の女性で、希望していた広告会社の営業職につくが、セクハラ、パワハラにあい、最後は怪文書まで流されて現場から外されてしまう。
それでもなんとか営業に戻ろうと努力するが、逆に疎ましく思われて、ついには経理課に配置転換、失意のまま離職に追い込まれてしまう。

現場で再会した東次によりを戻したいとアプローチするが、東次の態度ははっきりしない。

セクハラ上司のあっせんで神戸の広告代理店に採用された真琴は、東次に「行くなと言ってくれたら、神戸には行かない」と告げるも、「俺たちはもう終わったでしょ」とすげなく断られ、「こんなに辛いなら、二度と恋なんてしない」と涙ながらに立ち去ることとなる。
真琴が去った後、東次は涙を流すが、なんで俺は泣いているのかと煩悶する場面は見どころだ。

ここで仮に東次が「神戸なんかに行くな、俺たちもう一度やり直そう」と言っていたらどうなったか。
マッチョな東次は菜央と別れて真琴と結婚、真琴は東次の実家のクリーニング屋を手伝っていたかもしれない。
だが、それは彼女の望んでいた未来だったのだろうか。
仕事を取るか、家庭を取るか、岐路に立たされる女性は今も多くいると思う。
社会に出れば、セクハラやパワハラにあうかもしれない、恋愛、結婚と至っても女性の方が何かを諦めなくてはならない局面があるかもしれない。
このドラマは、希望を胸に社会へ羽ばたいていく、そんな女性たちへの応援歌だったのだと思う。

東次はラスト、神戸へ向かう真琴を空港に見送りに行く。
「なんで忘れようとしているのに、来るかな」と言う真琴が、本作のキーアイテムである捨てたはずの携帯ストラップを持っていることに東次は気づき、ようやく決心する。
真琴に自分を追いかけさせるのではなく、自分が真琴を追いかけると。
神戸に会いに行くね、と。
二人の遠距離恋愛が上手くいくかは分からない。
それでも真琴は仕事も恋もつかみ取った。

ところで、佐々木蔵之介演じる、後半突然いい人になるセクハラ上司にいらいらしていた当時の視聴者も、今や管理職である。
この作品は今こそかつての視聴者に問いかけてくる。
広末に同情していたあなた、よもや今、新卒にセクハラ、パワハラなんてしていませんよね、と。
20年経って、働く女性の状況は変わりましたか、と。
そういう意味で、本作は今でも色あせていない傑作と思っている。