彦次郎

アテナの彦次郎のレビュー・感想・評価

アテナ(2022年製作の映画)
4.0
13歳の少年イディール殺人事件からアテナ団地の大暴動が勃発することで暴徒と警官隊の戦闘の混沌と兄弟の悲劇を描いた作品。話のキーとなるのは兄弟3人(長兄を含めると4人だけど)です。まず末弟が殺されたイディールでその事件を警察署で会見を開くのが次兄にして軍人アブデル、そして会見中にイディールが警察官に殺されたという噂で仇をとるため仲間とともに襲撃するのが3男カリム。このカリムが警察署から武器を奪いトラックで逃走しアテナ団地に立てこもるまでの展開が怒涛の如く続きカメラワークと相まってオープニングとしてのつかみは最高でした。
舞台は団地ですがスターリングラードのような室内戦のごとき爆弾銃撃の地獄絵図の緊迫感、復讐を是とするか否とするかお互い弟への愛情があるゆえの対立が悲しく表現されている人間ドラマが素晴らしかったです。
暴走爆破軍人たる謎のセバスチャンや事件の真相など不気味めいたところも悪くないですがやはり娯楽作には定番の悪党ポジションが欲しいところ。それを担うのが多分長兄モクタール。こいつだけはコカインの密売による金儲けという合理的かつドライな男で『北斗の拳』でいうところのジャギのような扱いですがそれゆえに神話的悲劇に添える一抹の小悪党(実際は部下も多数いるなかなかの地位)としてのキャラクターがありました。
フランス映画ですが彼ら兄弟をはじめアルジェリア人がメインとなると想起されるのは戦争映画の大傑作『アルジェの戦い』です。監督の意図は分かりませんがこの辺りのフランスの事情がテーマとして隠されている(はっきり言ってるかもしれんけど)ような気がしてなりません。
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