タクマ

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のタクマのレビュー・感想・評価

4.5
見たで。
映画「ホテル・ルワンダ」にこんな趣旨の台詞があった。「世界の人々はテレビで流れる残虐行為をみても怖いねと言うだけで食事を続けるよ」
2年前の2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始した時も世界中の大半がそんな風だったと感じるし日本も変わらなかったと思う。

テレビの向こう側の映像ならチャンネルを変えるだけで惨たらしい現実から目を背ける事ができるが本作はそんな逃げは一切していない。戦火の中で崩壊した日常もその中で血を流し失われる命も真正面から写している命をかけたドキュメンタリーだ。死も破壊もそこにあるものが全て本物で辛すぎて侵略者側がいかに正義を唱えても否定する事ができない戦争の狂気がそこにあった。親がいない子供と関わる仕事をしている自分には子供達の死の描写が何よりも耐えられなくて何度も席を立ちかけた。

この映画を作ってくれた監督を初めとした制作者の皆さんには本当に心からの感謝をしたい生きていてくれて良かったと思う。彼らが生還してくれなくては世界中の人々があの戦争がもたらした恐ろしさも平和の尊さも知らずに終わっていただろうから。本当はこんな映画を作りたくなかったし自分に何ができるかわからないと言う記者の入魂の思いに対して観客も自問自答する事こそが本作の存在意義である気がするし表面的平和を謳歌し続けている我々日本人には「戦争は…静寂から始まる」と言う言葉に背筋が凍るし重さを感じる。新しい戦前はもう始まっているのかもしれないのだから。
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