テレビウォッチャーつばめ

月のテレビウォッチャーつばめのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
5.0
社会福祉や社会保障は「無知のベール」で

少し前に、意図せずやまゆり園(本作品のモチーフとなった)の付近を通り、起こった事件について思いを馳せました。
そういうタイミングで映画が公開されたので、見たくないことが描かれていたとしても観に行かねばという気持ちで観ました。

自閉症者施設で利用者の生活支援・介助の仕事経験があり、親戚に知的障がい者施設で過ごしている者がいる身としては、施設内の様子の描かれ方は、最も汚い瞬間、最も危険な瞬間を寄せ集めていると考えればリアリティのあるものでした。しかし、そういう状況は、ほとんどの場合において一瞬とかごく一時期であるので、リアリティがないとも言えます。

物語は、優生思想に取りつかれた元職員が、意思表示ができない障がい者を大量に殺戮するという話です。

先天的か後天的かに関わらず、障がいを持つと、生活していくために支援や介助が必要になることがあります。そういった不確実性は、一定確率で生ずるものであり、それ以上でもそれ以下でもないものです。

だからこそ、現実世界で自分が置かれている状況を一旦置いておいて、自分が生活していくために支援や介助を持つ立場(種類や程度があるのでいろいろな立場で)であったらどういうことが必要なのか、そしてその必要なことを可能な限り(必要なことを全て満たせるかどうかは社会の進化具合や経済力に左右されることもあります)満たすためには社会がどのように設計されているべきなのか、そういう立場(無知のベールで包まれた状態)で考える必要があると思うのです。

しかし、この映画で殺戮者となった元職員のように、現実世界で自分が置かれている状況を出発点にして考える思考様式は、最も濃いケースではこのような事件を起こすことにつながるし、薄いケースでは、映画で言われていた、見たくないものは見ないし、あっては都合が悪いものは隠蔽する社会づくりにつながっているのだと思います。

なお、思考様式の違いに関わらず、現実的な防犯対策は、防犯カメラによる録音録画、施設の出入り口での身元確認の充実化や、警備スタッフや警察の介入をスムーズにする連携訓練により、仮に何か起きたとしてもすぐにバレるぞ、逮捕されるぞという抑止力に頼って施設運営するしかありません。これは障がい者施設に関わらず、人が集まる場所共通のものです。

本作品の映画鑑賞は、このように改めて自分の考え方を記録するきっかけになりました。