てつこてつ

異人たちのてつこてつのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.3
山田太一の原作小説を大林宣彦監督で映像化した1988年公開の「異人たちとの夏」は、自分の中では80年代後半の邦画では揺るぎないナンバーワン作品。

浅草、扇風機、スイカ、老舗「今半」のすき焼き、花札、家庭用かき氷器といった日本ならではの昭和レトロな要素とノスタルジー感溢れるこの作品が、まさか今になってイギリス映画としてリメイクされるとは思いだにしなかったし、作品の重要な要素を活かすことができるのか懐疑的なまま鑑賞。

いやあ、ほぼオリジナル版と同様の展開を現代のイギリス社会に無理なく置き換えて映像化されているのに素直に感嘆した。

原作やオリジナル版の“親子の絆と深い愛情”というテーマを、主人公と彼が幼い頃に交通事故で亡くした両親、同じアパートに住む青年の4人だけに登場人物を絞って描くことで実に見事に表現できている。各シーンの舞台間の移動を曖昧にし(blur)、主人公の感情の動きに重点を置いている撮影手法、演出も上手い。

主人公と青年の設定がゲイである事が原作・オリジナル版と大きく異なる点ではあるが、生前にカミングアウトを果たせなかった主人公があの世から戻ってきた両親に告白する過程は、監督のアンドリュー・ヘイがゲイで自身を主人公に投影しているが故にこそ説得力があるし、この設定が無ければ、カトリック信者の母親と主人公の感情の葛藤と、それをも上回る親子の愛情が一つの大きな見どころでもあるので、このリメイクは成立していないかもしれないと思わせる。

また、オリジナル版では名取裕子が演じたケイの意図が、本作ではポール・メスカルが演じた青年のそれとは大きく異なり、特に終盤の賛否両論だったオリジナル版での展開(個人的には、何と言っても「HOUSE」が出世作の大林宣彦監督らしくおどろおどろしくもドラマチックな演出、流れる美しいプッチーニのアリアと共に好きなシーン)が、本作では実に静かに寂しく、同時に美しく綴られる。

何故、とうの昔に亡くなった両親が突然舞い戻ったのか等の説明が全くされないのも原作やオリジナル版同様だが、こういう不条理な部分に難癖付けそうなハリウッド映画と異なり、ヨーロッパ映画はやはり鷹揚としていていいね。

主人公を演じたアンドリュー・スコット、彼と肉体関係を持つようになる青年ポール・メスカル、母親役のクレア・フォイが皆好演。特に父親を演じたジェイミー・ベルの円熟した渋みが「リトル・ダンサー」の頃から知っている身としては感慨深い。

作品のテーマにも合ったちょっと神秘的な音楽、重要なシーンで使われるペット・ショップ・ボーイズの「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」も凄く良い。

にしても本作がR-15なのに疑問。「ブロークバック・マウンテン」同様に男性同士のSEXシーンが登場するからだろうが日本の映倫ってやはり遅れているなあとつくづく感じる。
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