Jeffrey

香魂女-湖に生きるのJeffreyのレビュー・感想・評価

香魂女-湖に生きる(1993年製作の映画)
3.8
「香魂女 湖に生きる」

〜最初に一言、九十三年は中国、台湾と二つの国がベルリン最高賞の金熊賞に輝いた。一つはアン・リーの「ウェディング・バンケット」そして本作だ。当時、中国映画として二度目の受賞作品で、VHSのまま葬られた秀作である。香魂湖畔のどこまでも美しい映像と民謡歌に息を飲む〜

冒頭、美しい水を湛えた香魂湖の畔。酒浸りで足の不自由な夫。ごま油工場を切り盛りする女。不倫相手の恋人、知恵遅れの一人息子、金の力、村の人々、結婚式、日本との合弁の話、今、湖畔に生きるたくましく、危うい二人の女の物語が始まる…本作は一九九三年ベルリン国際映画祭にて、最高賞である金熊賞を受賞した謝飛(シェ・フェイ)監督の傑作で、この度VHSを購入して初鑑賞したが素晴らしい。この作品も残念ながらソフト化されておらず、中国映画をYouTubeで紹介するために高額を出して購入。香魂湖畔のゴマ油工場の女主人の姿日常を中国の封建的倫理観や慣習とそれに伴う人生の悲哀を捉えた作品で、この監督の他の作品もぜひ見てみたいと思ったのだが、どうやら国内ではメディア化されてをおらず見る術がない(字幕ありで)。監督は「蕭蕭(シャオシャオ)」「黒い雪の年」などは一応当時日本で劇場公開されていたようだ。

この当時何が凄いかと言うと、ベルリン映画祭では金熊賞を二人の監督がダブル受賞したのだが、もう一人が台湾出身のアン・リー(李安)で、「ウェディング・バンケット」が輝いている。同じ東洋国での受賞だ。因みに九十年代には「いつか晴れた日に」で李安がまた受賞している。八十七年には張芸謀監督の「紅いコーリャン」も。さて、物語は美しい水を湛えた香魂湖の畔。香二嫂(シアン・アルサオ)は足が不自由な酒浸りの夫に代わって、ごま油工場を切り盛りしている。商売は順調、日本との合弁の話も進んでいる。二嫂は売買婚で嫁に来たのだが、二十年来の不倫の恋人があり、その逢瀬が二嫂の心の支えになっていた。工場を手伝う知恵遅れの一人息子に金の力で嫁を迎えた二嫂。恋人が去って初めて嫁に自分と同じ道を歩ませてしまった事に気づくのだった…と簡単に説明するとこんな感じで、美しい湖を背景に情緒豊かに描く中国映画の隠れた傑作の一本だ。このVHSも松竹ホームビデオから出ているのだが、基本的に中国映画は松竹からビデオが出ていて、なぜだかソフト化してくれない。

いゃ〜、冒頭の湖の移動撮影、女性の声で歌われる歌詞がなんとも美しく、かなり好きなオープニングである。そして中国映画にもかかわらず、日本語が飛び交う作品でもある。物語上、日本人がやってくる設定なので、通訳を通して女性同士が仕事の話をする場面で、村人が日本人が来たぞーと皆で好奇心旺盛に集まったり、笑顔で歓迎する場面はなんだかすごく優しさを感じる。中国伝統の音楽と共に、ロングショットで捉えられた湖の夕日に染まる美しい描写や、小舟を漕ぐ男たちのショット、女の人が葉を包んだり、すごく中国らしさが前面に出ているワンシーンはとても綺麗だ。それにしても知恵遅れの息子が村の少女と結婚したい、強引に手を引っ張っている場面で、母親がやってきて顔面にビンタするシーンなどは、痛々しい。中国の諺で、怠け者の亭主に良妻…と言う諺があるようだが、この作品の夫婦はまさにその諺に準じている。酒、タバコを買うお金を嫁からもらい、嫁が店を切り盛りするのだ。さらに知恵遅れの息子の面倒まで見なくてはならない。ちなみに旦那は足が悪く、杖をついているため、原因のーつに体の不自由があると思われる。


この息子の病気がただの知恵遅れじゃなくて、発作も起こして、その発作が人間の首をしめたり、とりあえず危険な行為を起こすので、母親は四六時中心配してしまい、お嫁さんが欲しいといつもだだをこねているから、取り急ぎ奥さんを見つけて、結婚式までするのだが、その嫁ほ首をしめてしまって、小舟に乗って出て行ってしまったり、色々とトラブル続きである。それを女ーつで懸命に注視しながら育てようとしているので非常に大変である。そして最悪なことに、旦那が奥さんに暴力を振るうのだ。セックスを強要してきて、それを拒んだ結果、馬乗りになって叩いてたら、避妊具が見つかり、さらに激こうした夫が妻を殴る蹴るする。奥さんは、また知恵遅れの息子が生まれてきたら困ると言うのだが、実はもう一人娘がいるので、もうー人の娘は普通に生まれたじゃないかと父親が論破するも、今度は知恵遅れの息子は本当に俺の息子なのか子供なのかと疑い始め、さらに暴力は加速する。この作品のクライマックスがなんとも余韻が残る。二人が距離を縮めるまでの映画である。これは見て損はない。ただ金熊賞受賞レベルの作品かと言うと少しばかり疑問ではあるがいい映画には変わりない。
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