彦次郎

兵隊やくざの彦次郎のレビュー・感想・評価

兵隊やくざ(1965年製作の映画)
3.9
満州に配属された破天荒な初年兵大宮貴三郎と彼の指導係となるインテリ古参有田上等兵の友情を描いた戦争ドラマ。「起床ラッパは女郎屋で聞いて、喧嘩でなおす二日酔い!」のフレーズのある大宮、タイトル通りやくざなのですが用心棒をしていただけあって日本軍伝統のビンタもまるで効かず攻撃側が音をあげるという強靭な肉体を誇っています。そのうえ態度もふてぶてしいので直ぐに目を付けられるという日本の風習にさらされるため有田上等兵が面倒をみていくというお話。戦争映画なのに敵と戦うというのではなくほぼ内部勢力との闘争しか描かれていないのが異色。
有田は大学出(当時の大学進学率は5%程度という説あり)なので上等兵どころか幹部以上の人材なのですが賢すぎて先が見えているのか除隊を目指して幹部試験をわざと落としたり、喧嘩相手のことを調べ上げ弱みを探ったうえで根回しをしておくなどインテリやくざみたいで実はもう1人の『兵隊やくざ』。大宮の方も一見茫洋としていて頭が悪そうに見えますが実はかなり洞察力がありそのための大胆さは軍隊という窮屈な世界観をぶち壊す破壊力があり痛快でした。浪花節の歌手を目指していたのか脱走兵の自殺にも心を痛めたり、脱走を手伝ったり、有田の恩義を返そうとしたりとするキャラクターは「俺があいつを裏切ってもあいつが俺を裏切ることは絶対にない!」と述べる有田の台詞に現れており主役に相応しい好漢でした。
徹底した縦社会で上官からの暴力は日常茶飯事、部署ごとの面子にこだわった不毛な争い、死が確実でも転勤には逆らえないという超絶ブラックな日本軍が酷いですが程度は違えどブラック企業は世に残っているところにこの作品の普遍性があります。そのために2人の友情とブラック職場からの脱出は格別の爽快感がありました。
彦次郎

彦次郎