彦次郎

静かなる決闘の彦次郎のレビュー・感想・評価

静かなる決闘(1949年製作の映画)
3.9
軍医としての手術中に梅毒に感染したため敗戦後も婚約者美佐緒と結婚できず秘密も打ち明けられず懊悩する青年医師藤崎恭二を描いた人間ドラマにして黒澤明監督の第8作目。
『酔いどれ天使』の時は破滅的なヤクザだった三船敏郎が今作では苦しむ青年医師を演じています。同作で医師だった志村が父親役となっています。当時としても薬があれば適切に治療できたのでしょうが戦時中という不運。しかも感染させた中田は梅毒を放置して結婚して事件を起こして警察のご厄介になるという理不尽さです。
妊娠中の見習い看護師の峰岸るいは綺麗ごとな藤崎に反感を抱いていたのですが藤崎の秘密を知ることで理解を深めていくのですがその人間的な関わりに希望を持たせるところが良かったです。藤崎が感極まって峰岸に心の苦しみを吐き出す場面は観ていて胸が締め付けられそうですが言った後に医療者として切り替えるところはリアリティが感じられ印象的でした。
原作は菊田一夫の『堕胎医』。”原作では主人公が梅毒によって心身を徹底的に破壊され、最終的には発狂して精神病院に送られてしまうのだ。”(引用元新佃島・映画ジャーナルより)という救いのない話になっているようです。原作未読ですが中田がその役目を負っているとみられます。
暗い話ですが心に残る作品でした。
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