NAO141

ヒトラー 〜最期の12日間〜のNAO141のレビュー・感想・評価

ヒトラー 〜最期の12日間〜(2004年製作の映画)
4.0
原題は〈Der Untergang〉。
「没落」や「失脚」を意味する。

ヒトラーの秘書であったトラウドゥル・ユンゲの証言と回想録を基にナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの最期を描く。戦争をテーマにした作品ではあるが、本作で描かれているのは堕ち行く独裁者と絶対的だった組織の崩壊に直面する人々の心理描写。

ヒトラーというと自信満々に演説をしたり敬礼をしている姿を思い浮かべる事が多いと思うが、晩年のヒトラーは判断力を失い、指令本部から出ようともせず、部下たちの助言にも耳を貸さず、短気ですぐに怒鳴り散らし、強いドイツを最期まで疑うことをせず、まさに狂気そのものである。一方で女性や身内には優しい一面を見せる紳士でもあり、単純に言い表す事は出来ず、彼も我々と同じで様々な内面を持つ一人の弱い人間であった事は確かである。

とはいえ、彼の罪は消え去ることはない。彼は判断力を失い追い詰められる状況下、「国民にかまっている暇はない」というような発言をしている。彼を理解不能な悪魔や狂人と見なす事は簡単であるが、忘れてはならないのはヒトラーが民主主義の手続に従ってドイツ国民の圧倒的支持を受けて政権を勝ち取ったという点。彼は独裁者のイメージが強いが、政権の奪取自体は国民の支持を得て選挙を通じて実現したのである。何かがきっかけで人は〈群集心理〉のようなものが働き、熱狂し、一人のリーダーを誕生させる事がありつつも、リーダーが独裁者となり、国民が苦しむ中にあっても戦争や虐殺に突き進む事すらある。そういった点も我々は歴史として覚えておかなくてはならない気がする。

戦後80年近く経ってもなおナチス政権下のドイツの描き方には制約が伴う事もあるが、本作はアドルフ・ヒトラーという人物をドイツの国民的俳優ブルーノ・ガンツが演じ、ドイツ国自らが製作しているという事に大きな意味がある。二度とあのような悲劇を繰り返さないためにも一度は観ておきたい作品である。
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