彦次郎

プリンス/パープル・レインの彦次郎のレビュー・感想・評価

4.0
人気バンドのリーダーキッドが仲間からの疎外、ライバルバンドの妨害、恋人との出会いと別れ、家庭の不幸等から人気が凋落し支配人から最後通牒を突き付けられ最後のライブに赴く青春歌謡ドラマ。
話としては所謂ありがちな物語で俳優陣も素人じみているという不穏さがありますが、キッドを演じているのがプリンス・ロジャーズ・ネルソン(本名がプリンスなのが既に凄い)で彼の実人生(真偽はともかくとして)とリンクしている点と映画アルバムが世界的大ヒットしたことでアカデミー賞を取った作品です。
長くなりますが、演じたプリンスという人物について記さねならないでしょう。一言でいうと「音楽の天才」且つ「尖った」人です。「天才」なる言葉も安易に使うべきではないでしょうが、1人で作詞作曲を行い演奏を全部こなす(20種類以上の楽器を演奏することが可能)でダンスもうまい、音域の広い歌声も持ったうえで、それぞれのスキルがトップクラスとなればやはり「天才」という言葉しか思い当たりません。特にギターの腕前は”「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も過小評価されている25人のギタリスト」において第1位”(wikipediaより)という超絶さです。能力だけでもキャラが立っていますが、顔が濃すぎ且つ低身長で独特すぎるファッションセンス(初期はビキニパンツにレッグウォーマーの時もあった)に加え独裁的且つ冷酷な面を持つ女好きで更に強烈なポリシー(自分の名前も音楽会社と対立して捨てたこともある)というアーティストとしての存在感は死してなお残っています。
生前から毀誉褒貶の激しい人物ですが本編でもキッドがアポロニアに謎かけして彼女が寒冷湖に裸で飛び込んでも「ここはミネトンカ湖ではない」と笑顔で言うあたりヤバい面も大いにあったと思われます。
このような人物を主役に映画を作るワーナーの肝の太さもなかなかですが当時の上昇気流に乗っていたプリンスに目をつけた話はおまけで歌詞つきの『パープルレイン』を主とした音楽映画とも言えます。しかし終盤の「Purple Rain」の演奏と周囲の反応は素晴らしい爽やかさを残しており個人的には青春映画としてもシンプルに良い作品だと感じました。
ちなみに本編に出てくるライバルバンドの「タイム」や恋人アポロニアの曲も全てプリンスが作曲しています。つまりタイプの違う全ての音楽を彼がコントロールしていたということでやはり「天才」といえましょう。

余談。
その昔TSUTAYAができる前に音楽CDをレンタルする古ぼけた店があり、ひび割れたケースの3枚組ベストアルバムがありました。気持ち悪い顔した歌手のジャケットだけどベストアルバムを3枚組で出す自信のほど気になり借りてみました。1回聴いた時はヘンテコな音楽ぐらいにしか感じませんでしたが何回か聴くと突如曲のカッコよさに気づきハマってしまったのでした。その最初が本作でも歌われている「When Doves Cry」でプリンスとの出会いであったわけです。そして幾星霜を経て本編を鑑賞すると当時が思い出されました。
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