もやし

マンチェスター・バイ・ザ・シーのもやしのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

2018/3/14ぶりに再鑑賞。BluRayゲットして未公開シーンも観たし、6年も経てば受け取り方もだいぶ変わったので再レビュー。冷静でいられない映画なので駄文。


この世の終わりのような悲しさに襲われて心がぶっ壊れたことがある人は気をつけた方がいい。立ち直れているならまだマシだが、今でも引きずっているようなら過呼吸を起こしかねない。

主人公ほどの悲しみを経験した訳では無いにせよ、自分は呼吸の仕方がわからんくなってビニール袋つかった。

正直今も辛すぎて何から書けばいいのか分からない。
歳をとって酸いも甘いもそれなりに経験した今でもこんなに物理的に息苦しさを感じる映画は中々ないのではないだろうか。しかも息苦しさのピークは2回もある。

それでもこの映画の主人公の心情・言動は心がぶっ壊れた経験がないと理解できないと思うからそういう人ほど観るべき。

感受性の豊かさが故に人と距離を取り、壁が崩れないように必死に生きる主人公は、悲しみを感じることすらももはや許されないという極度の自罰意識から世捨て人のように生きている。
その自罰意識はビール以外嗜まないというところにも現れているように見える。
あんな経験してたらもっと強い酒とかヘロインとかやるでしょ普通。

よく喧嘩ふっかけてるがあれも自罰。殴られたいんだよ。
ビール程度で正気失うはずがない。あれは意識的に殴られに行ってる。あわよくば死にたいんだろう。
自死すら許せないんだもん。
逃げだから。


元妻との会話が全て。
常に心が限界で生きてるのにI love youなんて言われたら溜め息も出ちゃうよ。わかってないな、You don't understand. って出ちゃうよ。There's nothing there.=君は何も悪いことはしていない、君からの苦痛は何も無かったってことにして何とか自罰して生きてきた人の気持ちは他人と子供こさえて新しい人生歩んでるやつにはわからんよ。

とはいえ元妻の気持ちも痛いほどわかる。
甥の若さ故の純粋な気持ちもよくわかる。
冷凍チキンみて親父を冷凍したくないって素直に言ったと思ったら、親父の形見だからボートは売りたくない、なんて一言も言わないあたり若者らしくて凄くいい。
故に誰に感情移入したらいいかわからん。心がぐっちゃぐちゃになる。

絶望だけじゃなくて希望も描いているのがリアルなところ。どれだけ苦しくて、余裕がなくても苦しむ理由じゃなくて生きる理由を見つけろよってメッセージを説教臭くなく伝えてくるからこの映画は名作なんすよ。

甥が泊まるための部屋を用意するっていうのは一見希望に見えるけど、自死すら許さない自罰の生活を続ける覚悟とも読める。

それでも生きる理由があるならいつか、自分を許すことは叶わずとも、未公開シーンで一度だけ祈った"救いの神"に誰かがなってくれる日が来るかもしれない。

誰かの悲しみで世界は止まってはくれないし、その悲しみが終わらないこともある。

以下雑記
・ミシェル・ウィリアムズはブロークバック・マウンテンしかり、グレイテストショーマンしかりいっつも不憫な妻だなぁ。

・演技の上手い下手って説明が難しいと思うけど、このケイシーアフレックをみたら感じることができると思う。表情に全てが出てんのよ。

・制作側が家事のシーンの撮影に臨むのが辛すぎて撮影日を何度も変えたらしい。アカデミー賞も納得の魂のいれかたよ。

・未公開シーンの子供の葬式は必見。

・シンプルにジョージが良い奴すぎる。パブの乱闘シーンでアイツの弟だ!って言うシーンはたまらん。自分の話は全くせず、ずっとビール飲んでるリーがついに自分の話をしたと思われるシーンではビール飲んでないのが泣ける。

・I can't beat it.って吐露できるだけでも希望だよ。

・Nobody can appreciate what you've been through.っていつか言いたい英語だなぁ。
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