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RAW〜少女のめざめ〜のRenのレビュー・感想・評価

RAW〜少女のめざめ〜(2016年製作の映画)
3.5
劇場鑑賞した『TITANE/チタン』以来にジュリア・デュクルノー作品を観てみた。ここまで血と肉(体)への興味が尽きない人がこういう着地の話を作るのは当然だと思った。

厳格な両親(母親)に育てられたベジタリアンのジュスティーヌ(ギャランス・マリリアー)が獣医学校の宿舎での生活を通して、肉の味に目覚めていく。ベジタリアンを、ここまで「思想」でなく単に「肉を食べない人」と額面通りに捉えて使った作品も珍しいのでは。思想よりもその容器としての肉体に強い興味がある人が作っていることがじんわりと分かる。

カニバリズムを題材にして観客をギョッとさせながら、最終的には「家族の中の自分」「血縁に対する個」のパーソナルな一人の成長・変化のドラマで串刺す感覚が現代の作家らしい。顔を背けたくなるゴアや痛みの描写からイーライ・ロスのような悪趣味監督(褒めてる)っぽくも思えるけど、ジョーダン・ピールやアリ・アスターラインの10年代ジャンル映画の監督としてきちんと語りたい監督。

劇中起こるほとんどのことは体験したことないはずなのに、どのくらい苦しいのか、どのくらいヒリつくのかが肌感覚で分かる。肉塊としての人間へのフェチズムが毎分に詰め込まれてる。映画とは、無いあるあるをいかに自分事っぽく思わせられるかの大喜利合戦だ。
でも個人的には、ボロボロの肌を掻きむしったり毛を吐き出してえずいたり、ぎりぎりあり得そうな辛さが並んだ前半部の大喜利が好みだったりする。

全体構造としてはミステリのようになっているのも面白い。序盤の意味不明なシーンが中盤に効いてきたり、かと思えば終盤でさらにもう一転する。
ネタバレっぽくならないように説明するのが難しいけど、新しい自分への成長・変化だと思っていたら実は定めされた運命に向かっていた、という視点の転換が鮮やかだった。
血筋の運命論に抗う主人公、というのは創作の鉄板中の鉄板だが、今作はその運命との戦いに向けたエピソード0だけを見せて幕引きする感じ。
中盤のセンシティブなパートを序盤の謎と終盤の布石回収パートでサンドした構成で、一本の映画としてはとても綺麗にまとめてある。

箱入り娘が世間を知るのと反比例して、知らずのうちに家族という檻に囚われていく話とも言い換えられる。処女喪失(=世間との交わり)で大人(≒親)に近づく、ティーンの普遍の通過儀礼ストーリーと捉えることもできそう。血も肉もとても性的と言えるだろう。ただ性行為は性行為としてまた別に描写されるので、少し見方としてはゴチャっとしてしまうかもしれない。

後半やや興味を失ってしまった『TITANE/チタン』に比べて、ラストまでドライブをかけて楽しませてくれた今作のほうが好みかもしれない。肉体破損が苦手な人は相当しんどいと思うので安易なおすすめはしない。

その他、
○ 初めて人肉を知ってしまった瞬間の劇伴、過剰でかっこよくて好き。
○ 姉妹の不思議な距離感から目が離せない。憎しみ合い喧嘩した次の共演シーンでは互いに寄り添い合ったりしていて、不思議な絆を感じる。中盤のある事件とラストにも効いてくる。
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