SANKOU

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディアのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

3.5

このレビューはネタバレを含みます

切開されむき出しになった心臓の映像から始まるこの映画。力強く打ち続ける心臓の鼓動は生の力強さを感じさせると共に、あまりにも無防備なその姿に気味の悪さを感じさせもする。
まだ物語が動き出していないのにも関わらず、観る者に不吉な予感を抱かせるようなカメラワークに音楽。終始何かがおかしい、違和感を感じさせる作りになっている。
心臓外科医のスティーヴンの元にマーティンという青年が尋ねてくる。この時点では二人の関係は分からない。
スティーヴンはマーティンに高価な時計をプレゼントする。マーティンは彼の隠し子なのだろうか、特別な間柄ではあるのだろうが、何処かスティーヴンは彼との関係を人に知られたくないように見せている節がある。
そしてマーティンという青年もどこか人とは違う不思議な感じを受ける。はっきり言うと得体の知れない薄気味悪さを感じさせる。
やがて物語が進んでいくと、マーティンの父親はスティーヴンが手術をした際に亡くなっていたという事実が判明する。
スティーヴンは避けようがなかった、あれは過失ではなかったと受け止めているようだが、マーティンに何らかの罪悪感を持っていることは確かだ。だから彼に何かと世話を焼こうとしていたのだろう。しかし、執拗に連絡を取って会おうとしてくるマーティンに、スティーヴンは次第に嫌気を感じるようになる。
スティーヴンには美しいアナという妻に、キムとボブという二人の子供たちがいる。
一見普通の上流階級の一家のように思われるが、どことなく血の通っていないような冷たさを感じる家族でもある。
ある日ボブは急に足が動かなくなってしまう。検査をしてもどこも異常なしなのに、翌日には食べ物も受け付けなくなってしまう。
スティーヴンは初めは仮病だと疑い、それほど深刻には考えていない。そこにマーティンが現れる。久しぶりの再会だが、スティーヴンはあまり彼との時間を持ちたくない。彼の態度を察したマーティンは手短に、何ということのないような口ぶりでとんでもない事実を告げる。
マーティンは自分の父親を殺したスティーヴンに罪を償わせるために、彼の家族にある呪いをかけた。足が動かなくなり、食べ物も受け付けなくなり、目から血の涙を流すようになったら、その後に待っているのは死だ。
スティーヴンは家族の誰か一人の命を奪わなければいけない。さもないとスティーヴン以外の家族は全員死ぬことになってしまう。
自分の父親を奪われたそのお返しに、マーティンはスティーヴンの大事な家族の命をひとつ差し出せと言うのだ。
やがてボブに続いてキムの足も動かなくなる。この事実をスティーヴンは妻のアナに打ち明ける。
スティーヴンはマーティンの父親の手術をする際に、酒を飲んで酔っ払っていた状態だったことも判明する。
徐々に崩壊していく家族の絆。アナはスティーヴンに対して軽蔑の感情を持つようになる。しかし彼らは自分たちの命が助かるかどうかは、スティーヴンの気持ち次第だということを悟るようになる。
スティーヴンが誰か一人選ばないと皆が死ぬ。でも自分が選ばれてしまう可能性もある。アナもキムもボブもあらゆる形でスティーヴンに媚びを売るようになる。その様子は滑稽ではあるが、とても不気味で不快感を抱かせる。
マーティン自身もスティーヴンが憎くて呪いをかけたわけではないことも分かってくる。彼はスティーヴンを父親代わりのように慕っている。自分の母親とくっつけさせようとしたのも、キムに接近したのも、別に悪意があってのことではない。
ただし、果たすべき使命は果たさなければならない。
物語はどんどん救いのない方向に向かって進んでいく。結末も物凄く後味が悪い。しかしこの映画は最初からこのような結末を迎えることが当然だったようにも思える。そう感じさせる演出がそこかしこにあった。
観ていて筋の分からないような難解な作品ではないが、簡単に理解出来るような内容ではなかった。
メタファーという言葉がたくさん出てくるが、この映画の象徴するものが何なのか色々と考えさせられた。
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