冒頭数分で心を掴まれる、まさにそんな映画だ。
最近力のある映画をどんどん排出しているインドネシアより、運命の一夜を過ごす父娘の姿を圧倒的な存在感で描く秀作が登場。
イスラム家庭で育った19歳の娘は4歳で生き別れた父親に会うために、ジャカルタへやってくる。娘が夜の路上でようやくみつけた父親は男娼と成り果て、感動の再会は衝撃の瞬間に変わるのだった。
一夜だけと決め、15年ぶりの父娘の時間を過ごした2人。とりわけ、男娼となった父親を演じるドニー・ダマラはその佇まいだけで彼が過ごしてきた年月の重みを滲ませる。この存在感はまさにアジアのハビエル・バルデム。1人で抱え込んできた娘の秘密に気づき、親とは何かを自分に問うように語りかける。
ウォン・カーウァイ監督作品のような映像の質感も、物語をより抒情的に映し出す。今回の映画祭で個人的には一番好きな作品。男娼たちの世界に舞い降りた聖女のような娘の姿も、また輝いていた。
第7回大阪アジアン映画祭で鑑賞。