金宮さん

こちらあみ子の金宮さんのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.5
こんなにも苦しくなる追体験はこれまでなかったかもしれない。予備知識なく観はじめたがゆえに、一見ファンシーな様相に反して、じんわりと迫ってくる不安。それは的中してしまいそこからは家族という地獄が展開されていく。

苦しい展開になればなるほど、それがリアルであればあるほど「自分だったら何をできただろうか?」と考える。

自分がもしあみ子の家族だったら?ひたすらに鈍感であり続けることだろうか?あの家族以上に?自分でも無理を言っていることがわかる。もう既に程よく鈍感であれと自分に言い聞かせ、寄り添っていたと思う。それでも限界はきちゃっていた。

家族外の存在であったら?一定の距離を取れるからこそ、フラットに接することで拠り所になれることを目指すか?それは作中で既に坊主頭の彼がやっていた。でも、あみ子は彼を認識すらしていなかった。興味がないからだ。フラットに接することができる余裕がある人物は、記憶にすら残らず拠り所になりえない。

せめてできることは?あみ子に見合った教育レベルでちゃんと向き合える体制をつくるしかない。そんな制度構造上の解決策に逃げてしまうが、多分本質はそこではない。

そもそも、あみ子をかわいそうと思ったり、なんとかしてあげなきゃと思うこと自体が間違いとも感じる。最後の「大丈夫!」に「こっちはこっちでやるんでー」といったニュアンスも感じた。

でもこの結末でいいわけもない。なかなか答えは出ないが、家族が「自己嫌悪回避のためだと認識したうえで」踏ん張るしかない。私だったら自分のためにやってると思ったらまだいけるかもしれない。もちろん、セーフティーネットとなる手段を駆使してでも。

現段階では当事者となれてない人間の綺麗事だとはわかっていつつ、こんな結論しか導けなかった。安易な解答は与えてくれない、とっても深みのある内容。

劇伴をはじめとした、技術的観点での白眉な演出もたくさん目についたが物語のパワーが強すぎて、そんなこと考えるのも小賢しいと思ってしまうとてつもない作品。
金宮さん

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