金宮さん

流浪の月の金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

流浪の月(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

ことの発端となっている事件に同情の余地があまりない。更紗を困らせていた、いとこのいたずらも、まずは親にチクるべきだし(アンティークグラスのくだりで家庭崩壊してないことはわかる)、そもそもロリコンだと認識している男について行くのはおかしい。

大人になってもからもDV男と別れないところに、更紗の悲劇陶酔型の恋愛観を感じ取ってしまうし、おせっかい同僚による「家内さんがこのあたりに住んでるのなんて知られてるわけだから」が本当なんだとしたら、更紗の近くで生活する文は危機管理がなさすぎる。前科を省みず、保護者なしの女児と共に歩くところなども含め。

要は主人公2人のムーブがとんちきすぎて「この愛許せるか?」の領域まで至れてないという感覚が2時間くらい続く。でも流石にそのままでは終わらなかった。

まずはラストで明かされる文の秘密。小児性愛なのか?アセクシャルなのか??とそもそも謎っぽい描き方ではあったが、「成長しない病気」(調べてみたところ、恐らく「クラインフェルター症候群」)と判明する。

正直、だからといって過去の落ち度は彼ら自身にあるという印象に変わりはないのだが、性的指向(嗜好)だと決めつける鑑賞者のバイアスを突き刺してきたのは事実。このあたりは『正欲』に通ずる。

さらに、最終的に2人での生活を決意するシーン。「きっとまた、とやかく言われるぞ」と文は危惧するが、流石にもうほっといてやってくれという気持ちになった。

個人的に、前科は(小児性愛は特に)ある程度再犯を警戒されて仕方がないと思う。でも大人どおしの恋愛であれば何も危ないことはないし、好奇の目もいらんこと。さらに更紗に関しては被害者側へのメディアリンチであり、これは明らかにやり過ぎ。「前科をどこから気にしなくなるか?」という玉虫色の議論を、あらためて考えるきっかけとはなるフラットな作りとはなっている。

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あと、実はいちばん心に残ったのは、ファミレスを退職する際に三浦貴大さんと会話をするシーン。「ほんとうに心配してくれている人もいるから、その人の声を聞いてほしい」と三浦さんが声をかける。

その後、立ち去る更紗に声をかけようと逡巡する、おせっかい同僚のぼやけた姿がかすかに映る。ぼやけてはいるが、私的にはその挙動に悪意はみえず、むしろ心からの心配のような何かを感じた。

当初、更紗目線では悪意をもったモブキャラ的に描かれていた人物。自ら視野を狭める更紗のような生き方に対して「実は寄り添ってくれている人は、見えてないだけで近くにいるかもよ」というメッセージにも感じた。

「あんなつまんない人たちとは打ち解けられない!私達でつるみましょ!」的に仲良くしていた趣里さんは、完全にあかん奴でしたもんね。曲解かもだけど。

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松坂桃李さんはいつもいつも、もうこれで役の種類はやりきったでしょと思わせといて、毎度次で新しい挑戦をして成功している。さらに、基本的に抑えた演技で怪演じゃないところが素晴らしい。

一方で、広瀬すずさんの苦手意識は払拭できなかった。みなぎる自信はどうしても隠せていないので、幅を見せたいのであればこっち方面ではない気がする。

対照的に横浜流星さんは見事に演技の選択肢を増やした感じ。登場シーン、汗だくで無造作に抱きつこうとする仕草で「あ、子供っぽい!無理系な奴だな」と即座に思わせたのは凄かった。
金宮さん

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