原爆の父"オッペンハイマー"の半生をクリストファー・ノーランがリアルなタッチで描いた自伝的作品。
「オッペンハイマー ＝ 原爆の父」というイメージが先行する中で漠然と原爆を生み出した人と語ってしまうことが多い中で、本作は彼がどのようなバックグラウンドを持って、どのように原爆の開発に携わり、そしてどのような感情で広島や長崎の悲劇を見たのかというのがかなり生々しく、それでいてストレートに描かれており、今まで彼に対して持っていた何となくのイメージが180度変わったし、何より学びが多かった。
また本作は神話的な描写というのがあらゆるところに散りばめられており、原爆という悪魔をこの世に生み出したオッペンハイマーの半生を半ば神話的に表現しているところは一つの映画作品としては興味深く、面白いと思った。
本作は原爆を落とした側の視点で語られるストーリーなだけに、観るは前はどこか美化されて描かれていないか、また日本人として不快な描写や表現は無いかなど少し不安な要素があったのだが実際観てみると全く美化はされていないし、寧ろ原爆を否定するという意味合いが強く込められていると感じた。
ただ闇雲にストーリーを美化しなかったり、否定する訳ではなく原爆を落とした当時のアメリカ人の視点つまり、"戦争を終わらせた英雄"としての彼らの考えや雰囲気というのもそのままリアルに描かれており、これによって片や戦争を終わらせた英雄として誇りと喜びに満ちたアメリカ人と片や戦争を終わらせるために多くの日本人の命を奪った兵器を作り上げたことに対する後悔と罪悪感に苛まれるオッペンハイマーというコントラストが上手く表現されていた。
本作はノーラン監督作品なだけに映像も魅力的だった。彼の特徴であるCGに頼らないリアルな表現というのが本作も顕在。特に原爆実験のシーンはどこか心臓を抉られるような緊張感と恐怖感に満ちていて見応えがあったし、原爆の恐ろしさをスクリーン越しから感じることが出来て良かった。
また出演者も著名なキャストが勢揃いしており、今までもノーラン作品に出演してきたキリアン・マーフィーが初めて彼の映画で主役を張った作品としても一つ感慨深いものがあったし、やはりMCUシリーズの一ファンとしてはアイアンマン役で知られるロバート・ダウニー・Jrの"役者"としての新たな一面が垣間見れたという意味で非常に眼福な作品だった。
本作はそういった見所も含め、原爆を落とされた唯一の国に生まれた人間として一度は観る意義のある作品の一つだったと感じた。
