金宮さん

やがて海へと届くの金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

大切な人を失った喪失感。観客にのみ「素直に打ち明けていれば違う未来もあったかも」をうっすら伝え、切なさを倍増させる仕掛けをしている。終盤のアニメーションパートも、死後の浜辺さん視点で陸前高田を訪れた岸井さんを見ていたということだと思っています。とてもとても切ない。

前半では、岸井さんが一方的に浜辺さんを拠り所としているようにも映るが、同じ場面を少しだけ角度を変えて見せるだけで、浜辺さん→岸井さんにも何かしらの気持ちがあったことがうかがえるようになる。

添寝シーンの前半と後半での印象変化は今作の肝。カメラレンズを数センチ動かすだけ、ほんのちょっと情報追加するだけでこうも見え方が違うのかと思わされ、繊細すぎる演出に驚かされる。

恋愛か友情か。作中で明確に提示されないのも上品で、同性愛を無闇にトピック化しないことにも好感がもてます。

「喪失感の解決は忘れないこと」という既視感ばりばりの帰着点ではある。ただ、とっても丁寧に、詩的すぎないギリギリのレベルで余白を残してくれており、鑑賞者は登場人物の感情を自ら考えることを余儀なくされ、メッセージや感傷がふかーーく沁みるつくりになっている。

ーーーーーーーーー

光石研さんのシークエンスは「自分の行動でなにか変わったのではないか」を岸井さん及び観客に連想させるための一連だと思ってます。

どうやら浜辺さんは世間一般の常識に抗うことが多く、逆に意識しすぎちゃっている。同性愛はNGだよね、と早合点することで岸井さんと距離を置く選択をしたのではないか?もし2人での生活を続けていたら、ひとり旅もしていなかったのでは?と想像を膨らませました。そしてここで言う同性愛はいわゆる百合的なものとして世間でラベリングされているものとも少し違うと思っています。

このあたりを誰かに慟哭しながら喋らせることもできたのにやらないのが素晴らしい。でも想像するには充分な手がかりはそろっており、程よく純文学的だと思います。

ーーーーーーーーー

主演2人は言わずもがな。民宿の娘役で明るさと悲しみを混ぜ合わせた演技をされていた新谷ゆづみさんや、静かな優しさを佇まいだけで発揮していた中崎敏さんが素晴らしかった。
金宮さん

金宮さん