三樹夫

おにいさまへ…の三樹夫のレビュー・感想・評価

おにいさまへ…(1991年製作のアニメ)
4.7
原作池田理代子、監督出崎統のベルばらコンビによる女子高版ベルばらともいう作品。マリみての元ネタともいえて、百合アニメっちゃ百合アニメだが、様々なことを経験し少女から大人へという青春群像劇となっている。主人公の髪の毛が最終話のラストでのびているが、子供っぽい髪型から大人の髪型へというので、子供から大人へ成長したということが表現されている。少女から大人へというので、奈々子が池のほとりでサンジュストの煙草を吸って苦しむのが初体験のメタファーにしか見えない回があったりする。憧れのパイセンの煙草の吸い殻大事にとってるのとか、吸ってみたりとかエモい。

このアニメはなんといってもマリ子につきる。作っている側が明らかにマリ子に感情移入しているし、観ている側もマリ子みたいな人間は多数いるだろうと想像できる、マリ子という私たち。原作よりも存在がフィーチャーされ、何故マリ子はこのような人間なのかという父親とのエピソードや、27話「マリ子刃傷事件」のOVAかってぐらいの作画の枚数っぷりなど、製作者は完全にマリ子推し。クリエーターがマリ子に感情移入するのも分かって、マリ子みたいなこじらせで上手くコミュニケーションが取れないから何かをクリエイトすることで心の空白を埋めようとするというのが想像できる。
マリ子というのは、コミュ障、ストーカー、ヤンデレのメンヘラ三冠王だが、父親が愛人の方へ行ってしまったトラウマに起因して、自意識強いけど自分に自信がないというこじらせキャラ。人と接するのが異常にヘタクソ。文化祭で貴にわざと嫌われるような言動をして貴の反応を見ていたのは、何があっても自分のことを見捨てない男性、つまり父親的な男性を求めている一種のファザコン。わざと嫌われるようなことをして相手の反応を試そうとするのも、いつか愛想つかして捨てられるのではないかという自分自身に対する自信の無さの表れとなっている。ただこの時の貴の反応は、さすが賢雄ボイスなだけありイケメン過ぎた。
マリ子回はいくつかあり、8話「あなたが欲しい」は、マリ子の感情の伝え方のヘタクソっぷりに、自信の無さからくる独占欲の強さ、そして耳たぶキスからマリ子回屈指の神回となっている。奈々子にだーれだをするも智子でしょと言われ、何故私の名前を呼んでくれないのという攻撃でありキスでもあるという複雑な感情を、耳たぶを噛むことで表現するキレキレの演出。この後のお泊り会でのやらかしから、奈々子に許してもらえるまで食事しないというコミュ障爆裂の謝罪方法まで、8話周辺のマリ子の輝きは凄まじいことになっている。
奈々子と智子の関係を羨ましく思い、下の名前で奈々子のことを呼びたいけど名字にさん付けで呼ぶコミュ障っぷりに、最終的に奈々子さん呼びになるのエモい。キャラ同士の名前の呼び方で距離感を表現するのがいい。

このアニメでの出崎監督の演出はキレキレで、27話「マリ子刃傷事件」の画面オフでカッター音のみを入れて狂気を表現する演出や、薬ボリボリの音を強調しサンジュストの不安定さを表現するなど音での演出が良い。もちろん入射光、透過光、ハーモニー、パラフィンがけ、画面分割など出崎演出てんこ盛りとなっている。
何故このアニメが女子高版ベルばらかというと、薫の君がソロリティ―は女子生徒に値段を付けて売り飛ばす人身売買制度です、貴族制度ですっとかいって途中でフランス革命が起きる。ただ池田先生ってベルばらの時も思ったけど、貴族の方に結構感情移入してる。フランス貴族とかソロリティ―みたいなのに憧れてるのが見え隠れするのが可愛い。
このアニメはマリ子を筆頭にキャラのあくが強いというか、薫の君と智子を除いて変なのしか出てこない。まず生徒会長がマリーアントワネットみたいなフランス貴族だし。宮様:ドS、サンジュスト:ドM、マリ子:メンヘラ、奈々子:総受けと中々のメンツ。出てくるキャラ全員が金持ちで、庶民設定の奈々子の家でさえ豪邸に見える。
玄田哲章がイケメン優男を演じている貴重なアニメで、モブに三石琴乃がいたり結構声優が豪華なアニメとなっている。小山茉美のサドボイスが宮様にすごくはまっている。
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