彦次郎

蒼天航路の彦次郎のレビュー・感想・評価

蒼天航路(2009年製作のアニメ)
3.0
『正史三国志』をベースに『三国志演義』要素を加えた”衝撃のネオ三国志”。三国志と言えば劉備もしくは諸葛亮を主役で曹操は「治世の能臣、乱世の奸雄」として悪党、ライヴァル、ラスボスのいずれかに収まっていたわけですが本作では主役に昇格。しかも「ならばよし!」で済ませるような超人(現実でも政治家、軍人、兵法家、詩人、酒の開発者とされる天才)として描かれています。スケールが大きいため善とか悪を超越したカリスマ的存在でこのような人物を主役にすると白けそうなものですが王欣太先生の圧倒的な画力とキャラ造形により全ての登場人物が輝くという素晴らしい作品になっていました。その作品のアニメ化ということで名作間違いなしと期待していましたが…。
「総監督の頭骨をえぐれい」「蒼天アニメ已死」という評もありますがそれでは一方的。良いところから書いておきましょう。まず作画。TVアニメとしてはかなり原作に寄せてありました。キャラの作画が時期的に合わない点もありましたがそこは予算的にも仕方ないといえましょう。また董卓の最期も原作よりも激しいバトルシーンでしたし呂布も超サイヤ人のようなスパークを纏う強さなのはアニメ的にはよい演出といえましょう。ただ張譲の最期など原作では読者の予想に任せる潔い悪党の最期が改変されているのはやりすぎな気もしないでもありません。
で残念なところですがなんといっても話や構成の改変と台詞のカットでしょう。全26話で終わらせるのが予定で決まっているのに官渡の戦いの途中で完結。原作は綺麗に完結(ラストも素晴らしい)しているのに打ち切り同然の終わり方でナレーションで締められていました。また関羽の夢(回想)で出てくる桃園の誓いも原作とは違う演出で残念極まるものでした。これは文字の頻出しがたいアニメということもありますが劉備や関羽が張飛を字(あざな)でいつも益徳と呼ぶところに意味があるわけでそこが演出の都合とはいえ改変されているも原作ファンには寂しい限りです。台詞もいちいち列挙しませんが王欣太先生の吹き込んだ言霊が吹き飛んでいました。サウンドがちょっとショボめとか声優が合っていない(董卓役の大塚芳忠氏はかっこよかった)とかもありそうがそこは見慣れれば我慢できるというところを置いてもこの2点の負があまりにも大きいです。
長々と原作ファンの愚痴めいたものを記載しましたが曹操も「感情をぶっ放さずしてなんの命だ!」と仰っているのでアニメファンの方々もご了解いただきたい次第。その辺りの拘りがなければカリスマ的人物たちの軍記物語として鑑賞できると思います。
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