りゅっくサック

仮面ライダー ビルドのりゅっくサックのレビュー・感想・評価

仮面ライダー ビルド(2017年製作のドラマ)
1.0
序盤は謎に引き込まれ、前川泰之さんの思惑やパンドラボックスに惹かれました。
キャストたちもほぼ演技経験者で、棒読みで笑っちゃうようなことも無かったと思う。
上堀内監督とシリアスな回がまさにベストマッチしていて、特に21話のハザードフォーム廃工場バトルは最高でした。
デザインも“普通”にカッコいい。


しかしそれ以外の全てに粗が目立ち、1クール目は展開の速さに対して異常なキャラ掘り下げの少なさ。
仮面ライダー歴代最多クラスのおもちゃアイテム・フルボトルも悪影響し、話数が2桁に入った辺りから、とても単独執筆してるとは思えないチグハグなストーリーに。

・やたらとくどくど台詞で説明。
・言い訳的な後付け設定の連続。
・キャラは成長せず言葉に説得力がない。
・ギャグは節操無く、キャラがピエロにされる。
・トリプルライダーキックを不発にし笑いにする等、特撮的な熱いお約束をわざとスカす。
・場面転換のほとんどがスマホの着信。


寒いギャグ
敵の計画を止める為に行動
敵に負け
お情けで敵がヒントを教えてくれる
悩み
寒いギャグ
打開策を過去の研究データから得る
悩み
仲間に励まされ
新アイテムで勝つor(それも敵の想定内)

後出し設定と強引な理屈で前に進め、連敗に次ぐ連敗の末に敵を撤退させる。
誇張無く最終回までこれの繰り返しです。

70〜80数個も小物商品を販売しておきながら能力バトルもせず、相手をどう倒すか演算する天才物理学者要素も無しです。
勝利の法則は最後まで教えてもらえないままでした。

キャラの掘り下げもせず
「細かいことは置いといて〜」とグイグイ展開を進めた後に不都合が出そうになると
「あれはこうこうこういうことで…」とファンタジーの後付け設定を、たらたら台詞で説明し始める。
この“逃げ”が謎解きや考察を無意味にする、いわばオオカミ少年状態。
真面目に見る方が馬鹿らしいので、終盤は逆に『どんな言い訳をするんだ?』という穿った見方をしていた。

そして物語の鮮度が落ちると
誰々が実は生きてた!裏切った!本当の正体は!?とキャラクターが上下左右に揺さぶられる。
見る側に対する真摯さが無い、ハッキリ言ってズルいと思います。

余分な設定、描写の枝葉は多いのに、肝心な情報の伏線や心情変化はおざなりにする。
恐らく制作現場も収拾がつかなかったんでしょう。

・仮面ライダーが強い理由がレベル。
前作エグゼイドが避けた落とし穴に全力疾走で落ちに行っている。
「戦兎より龍我が強いのはハザードレベルが高いから、その龍我を倒した一海が強いのはハザードレベルがもっと高いから」
当初は未知のガス物質への耐性だった物が、いつしか小数点刻みの分かりづらい戦闘力にすり替わっていました。

・ギャグ演出もくどい。
敵に負けた後や戦争中で悲惨な状況にも関わらず、突如気が触れたかのようなおふざけ。
そのシチュエーションのおかしさではなく
真面目なシーンへのカウンターとして、照れ隠しのおちゃらけをノルマ的にぶち込む。
無理にでもふざけないと東映上層部に怒られるのかと思うほど。
意味も意義もなく、ただ話を止めるだけの時間にしかなってない。

そのギャグシーンを担うのは猿渡一海と氷室幻徳ですが
幻徳は演じた水上剣星さんを哀れんでしまうほどの遊ばれ具合。
猿渡一海は紅音也の表面だけすくった結果がドルオタギャグでしょう。
しかし一海にはみーたんを想う信念の掘り下げも、ラブコメ的な関係発展もやらず
ただ記号的な属性としての、ガチ恋オタクとツンツンアイドルで終わりました。

「記号的な属性としての○○」は登場人物全員に当てはまります。

この作品のキャラクター達には、趣味趣向も癖も意外な一面も無い。
好きな食べ物は?好きな動物は?苦手な物は?意外とお化けが怖い?
そんな“人間”桐生戦兎、万丈龍我…etcの特徴が無い。
このキャラといえば?という積み重ねが無い。

ただでさえ積み重ねが無いのに
「次回予告で流れたオチに向けてキャラが行動する」脚本の操り人形で予定調和な展開にも辟易する。
キャラAが死ぬ回なら
Aが久々の登場→わだかまりが突然解消→単独行動のA→ライダー全員が足止めされ…
と分かりやすい死亡フラグでAをおあいそする為に全てが作用する。

つまり目先のことにとらわれて、勝ったり負けたり騒動を解決したり死んだりする訳でカタルシスもクソもない。
視聴率2%台を連発した理由も頷ける。

死亡描写自体何度もありますが
死ねば視聴者の心を動かせる、死に際に良い人っぽくなればそれまでをチャラに出来る、という魂胆が透けて見えます。

反面、モブ・一般人の死には注目すらされない。
葛城や佐藤太郎でさえ。
「敵が何の目的で命を奪ったか?」が主な論点で
後悔、怒り、覚悟を改める、そんな物は特にしない。
ウジウジと主人公が落ち込むだけ。

散り際をエモーショナルに見せたいメインキャラクター達と、雑多な被害で一括りにされる小市民。
「人々を守りラブ&ピースな未来をビルドする」という主人公の主張とは真逆で
この作品は【命】【争い】【感情】すべてが軽々しいです。

一般人がほとんど登場せず、内輪でメインキャラクター達がアジトのカフェで泣き笑いする。
夢オチか?とすら思える閉塞感が不気味だった。

最後に言いたいのは
【敵国領土で囚われた人質を
「助けに行けば侵略行為と取られて自国まで危険になるから、自国領土まで敵をおびき寄せ、防衛という名目で戦うならいい」と主人公が提案する】
これが一番ひどかった、最悪です。
国家の緊張状態のせいで、死に怯える人間を助けに行けないとのたまう仮面ライダーが現れるとは。


まとめると
コンセプトを無くした筋の通らない話はワンパターンの繰り返し。
矛盾やカラクリはファンタジーの後出しジャンケン設定で言い逃れ。
おちゃらけ、カッコつけるだけの成長しないキャラ達は理想論ばかり。
勝った!→敵の計画通りを繰り返し、後手後手に回り続けた物語はヒーローとは思えない手段で結末を迎える。
という目も当てられない1年でした。

このように安易な脚本は、戦兎を最終回でまで絶望し立ち上がれなくさせる予定だったようで
演じた犬飼貴丈さんがそれを「ここまで来てそれはおかしい」と監督に直談判したそう。

これって桐生戦兎/犬飼貴丈さんの1年間への冒涜とも言えますよね。
つまり作り手自身が桐生戦兎のかっこよさを理解していない、信用してない。
ってことですから。
とにかくキャラクターに真正面から向き合うことから逃げ続けた脚本だと思います。

1話冒頭の「この話の続きはホテルで朝まで〜」の時点で、さじ加減が分からないのかと嫌な予感はしてましたが
この脚本家さんは悪い意味で記憶に残りました。

戦争描写は韓国ファンからプチ炎上する騒ぎにもなりましたし
この番組の売りDXビルドドライバーも、不具合でいくつかのボトルが発売中止になったとか。
エグゼイドからプロデューサー続投と、ビルドの企画自体も直前で白紙になるなどバタバタだったようですね。

「平成ライダーってこんなんでしょ?」という作風全体が安直で舐めている。
何となく流し見する程度には良いかもしれませんが。
私にはライダーワーストどころか、ヒーロー番組、映像作品としても嫌悪する文句無しの駄作でした。
りゅっくサック

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