塔の上のカバンツェル

第二次世界大戦:最前線よりの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

第二次世界大戦:最前線より(2023年製作のドラマ)
3.9
いわゆる"カラーでみる世界大戦"シリーズというジャンルは、世界史オタクは皆んな通る道だと思う。
ただ、本シリーズの特筆すべき点はモノクロ映像を現代の映像と遜色ない解像度で殺戮と数多の死体の積み上がる様を我々の眼の前に突きつける映像の編集技術にあると。

この手のシリーズは腐るほどあるし、ネトフリだけでも「連合国軍 勝利への道」とか第二次大戦を扱った作品は多くあり。

そんな中でも本作は、AIの自動着色技術の更なる向上とフレームレートを上げたことで、大戦は白黒映像という一般層の先入観から現代の映像と見紛うばかりのカラーの映像によって、より過去の殺戮への解像度が一気に上がる。

2024年という現代、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻、各国の地域戦争など…SNSやお茶の間のTVがリアルタイムで膨大の量の紛争の映像を流す現代。
WW2は白黒映像だからこそ過去の出来事として現代の我々とはどこか切り離して捉えることが出来たのが、ヌルヌル動く鮮明なカラーの映像によって、過去の殺戮が現代の紛争と身近にリンクするという感覚。
この点で、観客層に最大のショックを与えることができるんだろうと。

月並みだけど、暴力の時代に逆戻りしつつある現代からあの大戦の時代を自分ごととして捉えるとことができる。


【映像の編集技術について】

本作、ピータージャクソンの「彼らは生きていた」の恩恵を受けているのは間違いなく。
彼の作品はww1なのでより荒い画質なのをフィルムのセル数をAIにより補填することで滑らかに映像を動かせたのが、一種のブレークスルーな技術であったわけで。
また、本業の映画監督が直で編集することで映像がドラマチックに演出されるという。
本作も同じプロセスを経ているので、臨場感は確かに過去の同類作品群に比べて凄いのは間違いないのではないでしょうか。

映し出されるコンバットフッテージ(戦闘映像)はショッキングな映像が連続する。

沈みゆく戦艦にしがみつく人々が爆炎と共に蒸発する様や神風特攻隊が肉薄する様に、戦闘の合間に映し出される、拷問、強姦、虐殺に民族浄化。

工業力と国家総動員体制で総力戦に突入し、1,800万人の人間を死に至らしめた第一次大戦から遥かな規模の工業力の動員によって大量の爆撃と砲弾、機動戦により戦火を瞬く間に世界に広げ、イデオロギーによる絶滅戦争とホロコースト、そして原爆。
4,500〜7,000万人という途方もない死者を出した歴史上類を見ない戦争を本作はショッキングな映像とエモーショナルな語り口で我々に理解し易いようにまとめ上げていると。


【他の映像シリーズと比べて】

NHKでも放送してたフランス製作の「Apocalypse」シリーズ(日本だと「よみがえる「第二次世界大戦 カラー化された白黒フィルム 」でお馴染み)や「World War II in HD Colour」シリーズなどがお馴染みですね。
並いる企画の中でも、オープニングシークエンスは、「The Second World War in Colour」の導入が殺戮の悲劇を象徴していて記憶に残ってる。
ただ、本作もボィエガのイケボイスも合間って第一話の冒頭3分のオープニングも印象的だった。


【合成着色技術の是非】

AIによる合成着色の是非については、度々歴史家の間で議論になることがあります。
それは歴史資料への改竄にあたるのではないかと。
当時の風景や服飾への着色はあくまでもおそらくこういう色だろうという推測による部分も少なくないので、当時の正しい色味とは限らないためです。
今後、AIの精度があがっていくことで史実に近づいていくのだろうけど、この問題は引き続き争点になるんでしょう。


【本作について】

しかしながらやはり、6話では描き足りない。おそらくこのシリーズを完結されるには50話くらい必要なんだろうなぁと。

大戦の前史たるスペイン内戦や日中戦争、ユーゴスラビア、ソ連のポーランド分割など…。

ナショジオやヒストリーチャンネルと違って、専門家を拝して解説やインタビューを入れる方式を今作では取らなかったことで、体感的により感情的に訴えるとようにデザインされているわけだけど、それはエンタメに一歩踏み出してるとも言えるわけで。

なので本作は、より一般の客層が観て、ショッキングを受けるのがある種正しいのでしょうなぁ。

どんなに凄惨な時代であっても、"彼らは生きていた"わけなので。