Jun潤

TELL ME hideと見た景色のJun潤のレビュー・感想・評価

TELL ME hideと見た景色(2022年製作の映画)
3.7
2022.07.15

ポスターを見て気になった作品。
邦画にしてはなかなか珍しい、実在のアーティストに役者を当てはめてドキュメンタリー風に描く作品。
1998年に急逝したX JAPANのギタリスト・hide、彼の弟が見た兄の姿、兄が叶えられなかった夢の続き。
家族の愛情と音楽が持つ力を感じさせてくれそうな作品として期待値はモリモリ。

1998年5月2日、X JAPANのギタリスト兼hide with Spread Beaverのギターボーカルとして活動し、若者たちから絶大な人気を集めていたミュージシャンのhideが急逝。
葬儀には5万人のファンが集まり、その死を数多くの人々が悼んだ。
その半年後、生前から予定されていた全国ツアーが主役不在という異例の状態でスタート。
ステージ横に立つのはhideの実弟にしてマネージャーのヒロシ。
彼は幼い頃の兄との思い出、ミュージシャンとしての兄の姿、死の直前を追想する。
それは、hideの共同制作者であるI.N.Aも同じで、hideの死後、制作途中だったアルバム楽曲の完成や、主役不在のツアー開催という困難に立ち向かった過程を想い返していた。

‘98年というと僕はまだ幼く、ビジュアルやロックについてもそれほど積極的に触れてこなかったので、序盤で当時の実際の映像を使いながら取り上げられたhideという存在、その死が与えた社会的、文化的影響は初めて知ることばかりで衝撃的でした。
後々登場し語られていく他のバンドメンバーやhideの性格などは、昔のトンガったビジュアル系な感じが、キャスト陣の演技と合わせて、説得力を持ち合わせていましたね。

作品の進行としても、hideとヒロシの兄弟の絆や、死の直後にシングルCDを発売したことに対する世間のバッシング、圧倒的な才能を失ったことから行き詰まる楽曲制作、そこから奮起してhideが遺した音楽を守り続けていく様など、緩急のついた良いものに仕上がっていました。

しかしやはりどうしても海外の同じような作品と比べて見るとなかなか…、演技臭さが前面に出ていたなという印象は拭いきれません。

そうだったからこそ、終盤のライブシーンでは、当時のライブ映像×現代の演奏パフォーマンス×役者の演技という、今作独自のまた新しい、まさにライブや映画の“未来”な感じがありました。

hideが生前に言っていた、音楽と映像の融合やバーチャルアーティストが、今や実現して世間に浸透しているというのも、彼の偉大さがわかるし、音楽という文化の進化が止まっていないことにまた感動しますね。

兄の自殺、hideというミュージシャンを失ったこと以前にヒロシにとってはあまりにも突然で大きすぎる出来事。
兄の死を悼む暇もなくhideの音楽を守り続けることに対する重責。
それは想像し難いほどの悲しみと辛さだったんだろうなぁと。
ヒロシとI.N.Aはhideと“未来”を見た、また、hideの死が彼らに“死”というものを見せてくれたのかもしれない。
それは決して必要なことではないけれど、人の死がもたらす、人が今を生きるための希望。
そこに音楽を付随されたら、そりゃ心に響きますよねって。
Jun潤

Jun潤