りょう

生きる LIVINGのりょうのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.8
 黒澤明監督のオリジナル版を最近観たばかりなので、どうしても比較してしまいます。物語はそのままに、かなり端折った脚色ながら、登場人物の心情はちゃんと理解できる演出になっていました。オリジナル版の記憶で補完しながら観たからかもしれません。
 映像も演出もかなりスタイリッシュに仕上がっています。時代設定はオリジナル版とほぼ一緒ですが、終戦直後の日本とイギリスでは、世相がかなり違うのでしょう。イギリスは戦勝国でもかなりのダメージだったはずですが…。当時の日本のサラリーマンとイギリスの紳士とでは、もともとの気質も比較になりません。
 この物語は、余命宣告された主人公がどう“生きる”のかよりも、故人の遺志をどう継承するのかというテーマに関心がありました。オリジナル版の通夜のシーンでは、酒席で高揚する日本人の醜態が象徴的でした。この作品では、職場の同僚たちが帰宅途中の列車内で冷静に故人をしのぶシーンが印象的です。ここに先進国としての地位を維持できるかどうかの分岐点があって、それが社会や組織を発展的に成長させられる要素だと思いました。
 ただ、新人の公務員が主人公の遺志を継承しながら、先輩たちに苦言を呈さないところなどは、組織の“ことなかれ主義”が万国共通であることを想起させます。
 穏やかでありつつ、少し感傷的な劇伴も好印象でした。もう少し長尺でもよかったかもしれませんが、70年前の日本の名作をコンパクトにリメイクした秀作だと思います。
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