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TAR/ターのogiharaのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.5
2023年度ベスト。純粋な芸術的高みを志向する天才にとって、現代のコレクトネスはノイズでしかない。クラシックの古典を重んじるリディア・ターは過去のマエストロと同様にマチズモを内面化している。
しかし本作が秀逸なのは、彼女が女性であるだけでなく、ベルリンフィル初の女性首席指揮者であること・彼女がレズビアンであることによって、ターが一見、リベラルにも見えるという点だ。そのためターの行為・言動は(同じ行為を男性指揮者が行うのと比べて)危険な説得力がある。この説得力は、ターを演じるケイト・ブランシェットのカリスマ的魅力によっても強化され、私たちの道徳観を揺さぶってくる。
芸術的価値と倫理的価値の関係や、ジェンダーと搾取など、私たちが当然視する既存の規範を宙吊りにし再考するよう仕向ける秀作。
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