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君を想い、バスに乗るのLCのレビュー・感想・評価

君を想い、バスに乗る(2021年製作の映画)
3.3
面白かった。

2人でできるだけ遠くへ来て、そこで暮らし、今1人になった主人公が、その道を戻る。

主人公はどんな道順か、どの場所に寄るか、細かい拘りを持って旅をするし、結構急いでいる。それが何でなのか、物語が進むにつれて見ている私にもわかってくる。
時間のない主人公に、けれど順調な旅路ばかりが訪れるわけでもない。間に合うだろうかとじりじりする。

たぶん彼は、思い出をそのまま遡りたかったんだと思うのだけれど、これは戻る旅でもあり、違う景色を見る旅でもあった。
できるだけ遠いところへ行く時も、きっと色んな景色や人とすれ違ってきてた筈で、でも彼の中にあるのは愛する人の姿だけ。
長い道を戻る最中、彼にとっては紛れもないトラブルなのだが、たくさんの人の笑顔に触れた。もちろん笑顔だけじゃないけれども。
戻る中で、彼は進んでもいたと感じる。それは新しい道でもあった筈だ。
思い出を胸に、2人で新たに旅をしていたと見ることもできるのかもしれない。

思い通りにはいかないけれど、主人公の固い意思は挫かれなかった。
辛く重苦しい記憶を、それでも彼なりに大切にしていた。
その女性のことを、心底愛していたんだね。
彼女も、そこへ戻りたかったんだ。

主人公の気持ちをじんわりじんわり描くところが心地よい。
そして本作、彼の気持ちに理解を示して見守る人たちのあたたかさも好き。
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