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小さき麦の花のkassyのレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
3.8
オンライン試写にて

金熊賞最有力とされつつ受賞はならなかったものの、中国で口コミにより異例のヒットとなった本作。

貧しい農民の男性と障害を持つ女性はお互い家族に厄介払いでお見合いさせられ夫婦となる。

2011年のお話で、村を治める者はBMWを乗り回しているが、主人公達はテレビも持たず、ロバを使い黙々と農業をして、土で出来た家に住んでいる。
2人ともとても働き者で、黙々と農業をし、土と、動物と、自然と生きている。
夫は妻をとても優しくて労わり、その優しさの端々に愛が伝わってくる。
そんな2人の慎ましい生活は、現代で忙しく生活する者にとっては逆に眩しく尊く見える事だろう。

自分達が住む家も手作りで、その労力をずっと観客達も見守ることになる。

そんな中、政策で家の取り壊しや都市での住宅提供が始まる…

ネタバレ出来ないのだが、ラストの展開は私にはただせつなかった。2人の慎ましく働き者で愛しかない生活の美しさをずっと見守ってきた私たちに、監督は投げかけてくる。
時代の移り変わり、生活の変化をあなたはどう捉えるのかと。
主人公の心の変化を私はただじっと受け止めるしかなかった。

2人の小さな愛の物語にじっと浸り、ラストの展開に思いを馳せて見ていただきたい。


余談:アフタートークで主人公が監督のただのおじさんだと知って驚いた。あまりにも朴訥とした魅力のある人だが、本物なだけだった。



【アフタートーク】
ゲスト:磯尚太郎さん(本作字幕翻訳者)

中国版TikTokで10分くらいの動画で映画の内容がネタバレして紹介され、この映画は映画館で見なければ、と若者達が映画館にこぞって集まって異例のヒット、社会現象になったそうだ。いわゆるファスト映画だが、そう言ったケースもあるのだなと考えさせられた。

監督の出身地ではあのように家を建てたりしていたが、若者達にとってはこのような暮らしを新鮮に受け取られたようだ。

英題は『塵に還る』
中国題は『塵煙』
塵煙に隠れる
中国では人間の生活が息づいている事を煙と表現する。反対語として仙人は人間の煙を食べない
日常の煙の積み重なりで見えなくなってしまう
彼らの苦しみも喜びも見えなくなっているだけで確かにそこにあったという事を監督は表現している

主人公は監督のおばさんの夫
実際にあの土地で農家を営んでいる
プロの俳優ではない
農家と国民的女優の組み合わせ
何ヶ月もおじさんと生活し、おじさんと畑を耕して役作りをしていった
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