回想シーンでご飯3杯いける

破戒の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

破戒(2022年製作の映画)
4.0
日本映画を観るのが億劫になっている(一部タレント頼りの風潮等)自分のリハビリ期間。ドラマ「侵入者たちの晩餐」に続いて、明治時代に出版された島崎藤村の小説を映画化した本作をチョイス。部落差別を題材にした作品で、これが三度目の映画化となる。

明治維新によって身分制度がなくなっているはずであった当時も、実際は部落差別が残り、そこで生まれた人は穢多(えた)と呼ばれていた。その出⾃を隠しながら小学校の教諭として働いていた主人公の葛藤を描く物語である。

当時の部落差別を、現代のフィルターを通さず、ありのままに描いているのが本作の特徴だ。差別に反対する主人公の同僚さえ、悪意のない差別意識を露呈させる。第二次世界大戦以前から部落解放運動を展開してきた全国水平社の創立100周年を記念して制作された本作は、問題の核心をごまかさない。

今ではダイバーシティやポリコレ等、人権に関する用語も耳障りが良くなり、身近に学べる環境が整ったとも言えるが、一方でどこかファッション化してしまい、いくらかの誤解を生んでいる局面も見受けられる。本作では友情や恋愛の要素を取り入れているが、あくまで差別とその構造を描く主題を忘れない。

そして、もうひとつ浮かび上がるのが「学ぶ」事の大切さである。主人公が貧しい教え子に真新しいノートをプレゼントするエピソードが印象的だ。無知が差別を招く。学ぶ事で差別に対抗する知恵を身に付ける。演出もキャストも派手さはないが、ブレの無いディレクションが素晴らしい。日本映画の良心を体現する作品である。