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MEN 同じ顔の男たちのSadAhCowのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.5
2022 年 46 本目

日本語タイトルの出落ち感。これって見てる途中に「あれ、ぜんぶ同じ俳優じゃね…?」って気づくことに怖さの仕掛けがあると思うのだが、しかし主人公のハーパー自身が「同じ顔」ってことに気がついてないっぽいし、日本語タイトルがなかったらたぶん自分も気づいてないかもな。ところどころでメタファー……にしてはあまりに露骨な形で描かれる生殖と出産。ぶっちゃけよく分からんところが多いのだが(なぜ主要キャラのなかで夫ジェームズだけ黒人なのか、最後に現れるライリーが妊娠しているっぽいのはなぜなのか、などなど)、とにかく印象は強烈な映画。なおガーランドは『進撃の巨人』アニメ版にすごく影響を受けたとインタビューで語っている。

Alex Garland Breaks Down the Making of ‘Men’ and How 'Attack on Titan' Influenced the Film
https://collider.com/alex-garland-interview-men-attack-on-titan-influence/

ただ本作のメッセージ的なものは、少なくとも自分のリテラシーでは分かりづらい感じもあった(というか分からない)。ハーパーを取り巻く人間が男性しかいないことからも分かるように、男性性の押し付けとか、それが出産という女性しかなし得ない行為でグロテスクに再生産されていく構図というのはよく分かるのだが……。余談ながら、この映画全体に「田舎」(正確にいえば田舎の男性)に対するある種の偏見が見られるのも確かではある。

主人公のハーパーの視線も、どこまでが事実でどこまでが妄想なのか、観客を戸惑わせるように構成されている。最初の全裸男の逮捕はおそらく客観的に事実だろうし、ラストで大破した車が映し出されることから、「何か」が事実として起こったのは分かる。ただ、それがいわゆる怪奇現象なのかハーパーの狂気の産物なのかは不明。ハーパーっていわゆる「信頼できない語り手」の典型例だから、本作を「差別と偏見いくない」みたいな話と捉えるとちょっと取り違える気がする。

ただ、こうした難解さ、不明瞭さが面白いかというと……。同じガーランド作品『エクス・マキナ』の単純ながらも寓話的で多層的なストーリーと比べるとちょっと物足りない感じがある。本作は、グロテスク度 100 倍増量だが、不思議とパンチはそこまででもないように感じた。
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