烏丸メヰ

MEN 同じ顔の男たちの烏丸メヰのネタバレレビュー・内容・結末

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

夫の死の瞬間を目撃した女性は、人里離れた田舎に心を休めにやって来た。
緑深く美しいその場所だったが、ふと見ると全裸の男が佇んでいて……

二回目鑑賞(映画館で観た時に途中で持病が出てしまい映像と音が半分程拾えなかった)。
美しい画面とメタファーに富んだ芸術的描写で、現実的リアリズムに即した醜悪性を突きつける社会派ホラー。
結末やストーリーの真実をはっきりと語らない宙ぶらりん系であり、さらに映画に満ちる描写とショックシーンのせいもあり、人によっては後味が全く良くない事も想像できる。

SNSにある「ぶつかり男」等のリプ欄にある議論や実体験、被害者叩きや男性への決めつけ等といったあの種の地獄を視覚化したような作品、といえば分かりやすい。

知恵の原罪の果実であるリンゴは同時に、現代的に見れば男女のジェンダーを固定した“原罪”の果実でもある。
このメタファー全開の導入から始まり、豊穣神の彫刻をモデルにしたと思しきオブジェや、
「従わないならこっちは被害者だお前は加害者になるぞ、と脅す論調を使い支配する」
「暴力、からの平謝り」
「女を“夫の添え物・大人なら結婚していて当然”と扱う悪気無き前時代性」
「誘いを断っただけで好き勝手な人格否定」
「全女性を魅力や価値換算するセックスシンボル視」
「寄り添う素振りで正論論破の傷つけ(攻撃ではなく理性優位の男性がしがちなロジック展開)」
「被害経験に基づいた女性の恐怖を“自意識過剰”とか“考えすぎ”と冷やかす」
「性的経験を聞く、暴行被害者にも性欲がある、として正当化したがる性暴力」
等、世の中に蔓延する、女性の多くが感じてきた“男性の有害性”を、メタファーと直接描写を織り混ぜながら絶え間なく突き出してくる。

描写の“イヤさ”が理解しにくかった男性にたとえ話をするなら、またこの映画の与える恐怖や嫌悪を考えて男性主人公版を作るとしたら、
痴漢冤罪で疲弊した主人公が田舎に休暇をとって旅行に来たら、その村の全女性達が
「目があっただけでスケベ認定の罵倒」
「薄毛への悪口」
「お前は童貞だろと決めつけ発言」
「グラビアつき雑誌や美少女漫画読んでただけで犯罪者予備軍通報」
みたいな感じになるだろう。
“この性別に生まれついただけで、何でこんな筋合いのない悪意と決めつけを向けられなきゃならないんだ!!”の塊映画なので。

この映画が強烈なメッセージ性を持ちつつも、単なるフェミニズム映画ではないところが良い。
男性全否定というわけではない。
夫婦の揉め事の原因が男性にある、としていない(問題があったのは主人公の方かもしれないという見方も出来る視点)事や、男性が持っている「男性としてこう生きている」という箇所も、男性社会による抑圧や性差(兵隊の素質がない、等の侮蔑や、どうしても特性として持ち合わせる精神的幼さ)によるものだと示唆される描写もある。
これを拾えるかで人によりこの映画の印象は多分変わってくるのでは。
そしてそんな男性も女性から生まれ、どんなに嫌悪し恐怖しようとも、女性の肉体は男性をも産むものであるという事実と、
「妊娠・出産経験の有無による女性間での格差意識」
の存在にも考えを牽引される。
面倒見のいい女友達にも最初から一緒に過ごすのを許可しなかったのは、妊婦である友達に対して主人公が何らかのコンプレックス(女としての引け目ないし羨望)を感じていたのかも。

美少女キャラクター等の何を見ても「性的消費だ!」と脊髄反射で女性蔑視に見える女性や、女性の性被害や男性恐怖の何を見ても「まんさん乙w」に見える男性達にこそ、この映画はオススメだと思う。
烏丸メヰ

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