りょう

アイ・アム まきもとのりょうのレビュー・感想・評価

アイ・アム まきもと(2022年製作の映画)
3.6
 イギリスのオリジナル版である「おみおくりの作法」を最近観たので、ちょっと比較するつもりで観ました。物語の本筋はそのままですが、少しコメディ要素があって、全体の作風そのものは最近の邦画にありがちな雰囲気でした。
 日本には戸籍というものがあるので、それを丁寧に辿れば、遠縁の親族の住所までわかります。市区町村の役所なら職権で調査できるので、イギリスのよりも“身寄りの人”を探すことが簡単なはずです。蕪木には生前に2人のパートナーとそれぞれ1人ずつ娘がいたことになっていますが、牧本が彼女たちに辿りつくまでにかなり苦労しているので、法律婚も認知もしていなかったということになります。それはそれで蕪木の人格を疑ってしまいました。
 それはそれとして、日本のリメイクとしては、よくできた作品だと思いました。牧本のキャラクターは、誰かが言っていたように“恐ろしいほど察しが悪い”ので、それを利用した脚色が奏功して、登場人物の会話がめちゃくちゃわかりやすくなっています。彼はパソコンも携帯電話も使用していませんでした。蕪木の面会記録をめぐる刑事の神代とのやりとりは爆笑でしたが、普通はスマホで写真を撮るところです。
 阿部サダヲさん以外のキャストを把握していなかったので、宮沢りえさんと満島ひかりさんの登場が嬉しかったです。2人とも相変わらずナチュラルな雰囲気で、オリジナル版ではあっさりだった終盤の葬儀のシーンで泣かされてしまいました。牧本が丁寧に蕪木の痕跡を辿った結果だとわかるのでなおさらです。
 舞台を山形県に設定した理由はわかりませんが、親族たちが都会に移住してしまって、ほとんど面識もないような親族の葬儀には参列すらしたくないということもあるのかもしれません。最近は“墓じまい”なども増加しているので、日本人の宗教観や死生観なども淡白になっているのでしょう。豪雪地帯の庄内地方を舞台にするなら、5月なんて気候のいい時期ではなく、銀世界をバックにしても風情があってよかったかもしれません。
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