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神は見返りを求めるのbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

神は見返りを求める(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

前半の繊細さは本当に素晴らしかった。売れないYouTuberの優里(岸井ゆきの)とそれを"善意"で支える田母神(ムロツヨシ)だったが、優里は人気YouTuberと出会うことでどんどん調子に乗って田母神を切り捨て始める。この二人の絶妙な関係性と、完全なる"いい人"の田母神の描き方が素晴らしい。ムロツヨシの表情の付け方もリアルでとても良かった。そして岸井ゆきのが完璧。キャスティングした人が偉い。この「可愛げはあるし可愛くはあるのだが垢抜けないし絶対売れなさそうな芋臭さ」を表現できて演技力がここまである人間は他にはいない。痛い女を演じさせたら右に出る者はいないように思う。

中盤、自殺した知人の借金を背負わされ余裕がなくなった田母神が完全にキレるところから物語は急転する。二人が延々とYouTube上で醜い争いを始めるのだ。正直この辺りはちょっと残念だった。あまりにも田母神のキレ方が安易というか直情的すぎるというか、あそこまで溜め込んできた割にキレ方が普通の人過ぎて。ムロツヨシの表現力不足もあったように思うが、演出もイマイチ。

そして「田母神は優里のことを内心見下していた」「優里は真剣に誰かを笑わせたかっただけだった」という流れになっていくのだが、これにもどうにも乗り切れない。

まず前者については、そりゃそうだろ、という感じ。あんな動画、本当に良いと思って応援しているわけがない。"可哀想な子を助けてあげてる俺”に酔ってただけ、そんなの当たり前じゃん。それの何が悪いのか。それでも田母神は優里のことを"何の見返りもなく"身を粉にして助けてあげていたではないか。そう、その"可哀想な子を助けてあげてる俺”こそが田母神の求めていた"見返り"だ。優里はちゃんとそれに気付いてそれを与えてやるか、さもなくば始めから田母神を頼るべきではなかった。散々利用しておいて今更どの口が田母神を責めるのか。

そして後者だが、これもどうかね。裸になったり人の悪口を言ったりして再生数を稼いでおいて、さすがにその"いい話"は無理がある。

などと複雑な思いで観ていたのだが、ラストの急展開には驚いた。調子こいた結果、優里は全身に大火傷を負い、田母神は背中を刺される。そして優里は田母神に「あなたのことは嫌い、でもありがとう」と言い、田母神は優里との思い出の下手くそなダンスを踊るのだ。二人共に罰が下り、後味は最悪のはずなのに、とても美しく清々しいラスト。

もう一度前半を見返したら案の定グッと来てしまった。とりあえず★3にしたが、正直★4でも★2.5でもいいような気がしている。全然評価が定まらない映画。多分すごく好きなんだと思う。
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