なごみ

ソフィアの願いのなごみのレビュー・感想・評価

ソフィアの願い(2018年製作の映画)
3.6
「人はどんなことにも慣れる」
という言葉は重い。

モロッコでは婚外子の妊娠は罪だ。
夫の届出ができなければ、小さい医院ですらその出産を受け付けない。

「人権」という発想を持てるかどうかも階級に依っている。医者として働きフランス語も巧みに操るレナは「そんなことおかしい」「どうにかできないか」と声を上げられる。

しかし当事者・ソフィアは多くの言葉を持たない。冒頭しばらく、苦しそうな表情で口で息をするばかりの彼女は愚鈍なように見え、うつろな表情で「供述」を進めていく。
コールセンターもクビになり、フランス語もあまり話せないという彼女はしかし、「丸く収まるように」全てを見事に采配してみせて、レナの怒りを横槍と見做して敵愾心を抱く。

彼女たちは連帯しない。


巻き込まれた下町住まいの貧しいウマルが壮麗な衣装に身を纏った姿は「お仕着せ」そのもの。

ここにも階級の差がある。
1日勾留されたあとベンツに乗って帰宅するソフィアと、母と共に混み合ったバスに乗って帰宅するウマル。

ソフィアはこれで「男になれる」じゃない、と軽く告げる。反射的に「俺は男だ」と言い返したものの、力無く、
「良い家」と縁を結び、生活を楽にする、結婚する、「男になれるんだ」と考え直す。喜びは感じられない。

ソフィアが裕福な家の娘でなかったら、レナが医者でなかったら、事はこんなふうに運ばれていない。生まれの差が、性別の差が、生き様を細かく規定している。

祝祭の喧騒は断ち切られる。
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