nt708

ザリガニの鳴くところのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

原作と出会ったのがちょうど去年の今頃。こんなに面白く、表現豊かな文章を書ける人が今の時代にいるのかと感銘を受けたのは今も忘れることができない。自然学者の著者にしか書けないあの表現は決して真似できないと嫉妬や悔しさを通り越して、尊敬の念を抱いたのは、人よりも少しだけ多くの本と映画に触れてきた自分には初めての経験である。

原作と出会った当時から映画化の話は小さな話題となっていて、いちファンとして公開を心待ちにしていた。それがまさか僅か一年でお目にかかれるとは、、これだけ自分の中でハードルが上がっていると多くの場合はそれを超えず、ガッカリすることが多いのだが、本作は自分の中のハードルを優に超えてきた。

もしかしたら、多くの方が指摘するように〇〇モノという特定の物語のジャンルに括った見方をすれば、面白さに欠けるかもしれない。しかし、本作は物語の面白さ以上に原作と同様、表現の豊かさを楽しむモノなのではないだろうか。そもそも事物を特定のカテゴリーに括ってしまうことこそ、本作が最も嫌う姿勢であり、おそらく作り手もそれを望んでいない。

ときに人生は、映画は、万華鏡のようなもので、対象は同じであっても見方を変えるだけで全く違う世界が目の前に広がっていることに気がつく。そうやって見方を変えていくうちに世界が広がっていく懐の広さのようなものが、あの湿地と本作にはあるように感じた。

映画を観て何を感じ、何を考えるのもその人の自由だが、ときに情報が簡単に手に入ってしまう現代だからこそ、〇〇モノというような斜に構えた見方ではなく、何の偏見も持たず作品に身を委ねるようにして見てみるのも良いのではないだろうか。かくいう自分が一番偏見を持って、贔屓目に観ているのかもしれないが、、これから本作を観るいち原作ファンの提案として。
nt708

nt708