麟チャウダー

哭悲/The Sadnessの麟チャウダーのレビュー・感想・評価

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
3.7
性格の悪さが溢れ出ている設定、展開、描写に圧倒された。血の量が多すぎてとんでもない絵面になっている最高に趣味の悪い、最悪の映画。

ちゃんと映画として成立させていながら、趣味全開のグロ映画をしていて、社会批判と皮肉たっぷりで世界への破壊衝動を発散させるっていう内容に監督の狂気と執念を感じた。

画面の暗さで誤魔化さないのがいいなって思った。外は午前中で明るいし、電車や建物内も残酷なシーンが終わるまで停電しないし、照明が空気を読んでる。停電してからも暗いんだけど、見えやすい。逆に言うと、嘘偽りのない残酷な光景をハッキリと見ないといけないのが良くも悪くも気持ち悪かった。

感染した人が、感染してない人を襲う系のパンデミックゾンビ映画。目が真っ黒にガンギマって、涙を流しながら人を惨殺していく。ゾンビ化しても人間としての意識は残ってることや、残忍性を抑えられない脳の変化や涙を流す理由などの設定が極悪非道。人間性、尊厳を崩壊させる悪の所業。

政治批判的な部分もあって破壊衝動の矛先をそこまで向けているんだけど、国民自体も救いようがないなって見放してる感じもあった。国を丸ごとぶっ壊してやるっていう勢いが凄まじかった。

やっぱり愛が最強だよなからの、所詮は人間かよっていう落胆。そして最後の希望を台無しにする人間の愚かさを想像させる救いようのないラストが残念で、でもそれが痛快だった。
徹底して人間は凶暴で残酷で盛大に馬鹿だっていう見下し方と、一切、人間に期待せず希望も抱いていないかのような映画だった。

最後のあの銃声に対して想像する結末というのが、自分が心の奥底に持つ残忍性を表しているのかなって、思ったりもした。そのことに涙して残念がるんだけど、でも残念な結末に快感を覚えてしまうことがもう、心が感染してゾンビ化してしまっているんだなって思った。
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