ヤノ

ショーイング・アップのヤノのネタバレレビュー・内容・結末

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

「見る」「見られる」そして「見せる」といった視線の無数のやりとりの先に“現れる”世界を描いていた。

同僚とか隣人とか家族とかペットとか向き合ってる作品などと交わされる視線の集積によって、ニットのように編まれるリレーションシップの網が、アーティストの視界を不安定で一方的で息苦しいものに追い込んでいくようだった。そもそもアーティストとは、「見る」「見せる」「見られる」生き物。その苦悩をしっかり具体的に映像で示していることに感動した。

給湯器の故障、兄の奇行、隣人アーティストの評判の良さ、飼い猫のせいでケガをした鳩のケア、父親の家に居座る横柄で怪しい居候。主人公のリジーは異常なほど気が散りまくっており、完全な状態で作品に向き合える時間はほとんどない。だから主演のミシェル・ウィリアムズの顔と佇まいに現れる疲労は終盤に向かってどんどんエスカレートしていくのだが、こうなったら爆発するっきゃねーだろってところまで行って、いざ個展はじまっちゃうよ、てかチーズばっかり置いて誰が食べんだよ、あーお客さん来ちゃったよ、と爆発のお膳立てばっちりの状態のはずの会場となるギャラリーがとんでもなくcozy place なせいで、なかなか沸騰しないお湯を見ている気分だった。その停滞しきった、すべての視線の行き止まり、しかし爆発は起きない。ドン詰まりの空間を周到に演出してからの鮮やかな“ショーイング・アップ”だった。すごかった。

6
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