りっく

聖地には蜘蛛が巣を張るのりっくのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
本作は娼婦たちを狙った実際の連続殺人事件をベースに構成されているものの、主軸は真犯人を暴くミステリーではない。早い段階から犯人は明かされており、事件の真相に迫る女性ジャーナリストは犯人よりも、イランという国で女性でいることの恐怖を追体験し、立ち向かうことになる。

全編において女性嫌悪、女性軽視が甚だしい。しかも、女性の中でも娼婦は汚らわしいものだと蔑視し、「浄化」されることに疑いさえ抱いていない者もいる。ある者は遺体を私有地に捨てられて困ると言い、娘を殺された父親さえも容疑者が罪を償うことよりも娘が娼婦になってしまったことを嘆く。殺人犯が実際に娼婦を絞殺するおぞましさは勿論のこと、男性が女性に向ける視線さえいちいちグロテスクで暴力的なのが恐ろしい。

一方で男性側も、それが当たり前のようなある種の純粋さがある。罪悪感という発想すらなく、「浄化」という便利な言葉で、いとも簡単に娼婦をクリーンナップしていく様。神の思し召し、退役軍人のよしみ、そういった自己中心的な、男性中心的な物事の考え方やものの見方が行き着く先に待っているものを、本作は冷酷に突きつけている。
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