blacknessfall

我々の父親のblacknessfallのレビュー・感想・評価

我々の父親(2022年製作の映画)
3.6
不妊治療患者に自分の精子を無断で使用した医師、ドナルド・クラインのドキュメンタリー。
こんなことがあるのかってことに驚き、さらにこれが何の罪ならないことに驚く、驚愕二段構えと勝手にドナルドの子を産まされた両親、ドナルドの子供して産まれてきた人達の心痛と慟哭に胸が痛むヘヴィなドキュメンタリー。

事態が発覚するのが1人の女性が両親と容姿に共通点がないのを不信に思い遺伝子🧬検査を受けた結果、他に7人の異母兄妹がいることがわかる。驚いた女性は他の兄妹とされる人達にコンタクトを取る。すると全員がドナルドの不妊治療で誕生したことがわかる。
この調査でドナルドの精子から産まれた子供は最終的に90人にも昇った!インディアナポリスの小さい町に彼等は点在して住んでいたから、もし知らずに愛し合う仲になっていたら近親相姦になっていかも知れない。現に知り合いの知り合いのぐらい近い距離だった兄妹もいた。
それより、自分の父親がまったく知らない他人だと知った時の心痛は計り知れない、それを語る兄妹達の言葉は皆一様に悲痛だった。アイデンティティ・クライシスになるわけで想像を絶する心境だと思う。

ドナルドは事実を認め子供達の何人かと対面するが、謝ることはしなかった。ドナーがいないから自分がご両親のために提供したと言い訳をする。そしてこの時点でわかった兄妹は10人ぐらいだったんだけど、「これ以上はいない」と断言した。でも、マスコミで取り上げられ調べる人が続出してうなぎ登りに数は増えていき、前述したとおり90人あまりに、、。
謝罪もせず保身と体面に拘る最低なクソ野郎なドナルド。自分が特に悪質でムカついたのは、ドナー提供じゃなく夫の精子で不妊治療を受けた夫婦にまで自分の精子を使ってたとこ。二重に騙してるよな。

取り返しのつかない被害を受け心に傷をおった兄妹達はドナルドに何故こんなことをしたのか問うがドナルドは「やむ得なかったから、治療ために」とあくまで善意からだと強弁するのみ。なので生立ちや経歴、人格などを調査する。
その過程でキリスト教系白人至上主義カルトの教義を信望した結果ではないかという仮説が浮上する。
ドナルドは熱烈なクリスチャンで院内には聖書の聖句が至るところに貼ってる。その1つがこのカルトが最も重要視する聖句だった。そのカルトはとにかく子供をたくさん作り権力中枢に送り込み白人社会を維持しろと説く。
ドナルドは白人夫婦だけに精子を無断提供してる。その数の多さ、あくまで善意からだと居直る狂信的な態度。これは仮説が当たってると確信した。

と、一瞬思ったんだけど、違うと思う。白人だけにやったのは有色人種だと発覚する恐れがあったからだと思う。ドナルドが無断提供をしてたのは70年代から80年代、遺伝子検査が確立される前だから白人だけならバレることはない、あったとしても証明できないからだと思う。
知的エリートで地元名士という肩書きの人間の想像を絶する悪行だから及びもつかない理由を求めたくなるのは理解できるけど、単なる異常性癖なんだよ。よく我が国でも満員電車とかで女性に自分の体液かける有害な変態がいるんじゃん、アレと同じ。たまたま不妊治療医だからこういう行為になっただけで。

いずれにしても当事者の方々のことを思うとなんの言葉も見つからない。何よりドナルドのこの行為が罪に問われなかったのが本当にやりきれない。該当する法律がないらしい。当事者の方々も言ってたけどレイプで立件しろよって思った。
blacknessfall

blacknessfall