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サントメール ある被告の一人旅のレビュー・感想・評価

サントメール ある被告(2022年製作の映画)
4.0
第79回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞。
アリス・ディオップ監督作。

セネガル系フランス人の女性監督:アリス・ディオップが、フランスで実際に起きた事件に着想を得て、子殺しの母親を巡る裁判のゆくえを描いた法廷ドラマの力作です。ヴェネチア映画祭で審査員大賞を受賞したほか、アカデミー国際長編映画賞にフランス代表作品として選出されました。

フランス北部の町サントメール、白人のパートナーがいるセネガル系の女性作家:ラマは、生後15ヵ月の娘を海辺に置き去りにして死なせた罪で起訴されたセネガルからの留学生である女性:ロランスの裁判を傍聴するが、始めは精神を病んだ被告が引き起こした身勝手な惨劇として片づけられそうになる中、裁判の進展と共に、女性と事件の背後にある不条理な現実が浮かび上がってきて…という“社会派法廷ドラマ”となっています。

子殺しの罪に問われたセネガル人女性を巡る裁判とその一部始終を傍聴する若き女性作家を描いて、西欧社会で生きるアフリカ移民の不遇な境遇と生きづらさを静かに浮かび上がらせていきます。そして、被告である女性の孤独と社会からの疎外感、そして母親としての痛切なる想いとその敗北を目の当たりした女性作家の心境の変化を終盤に提示して、母と子という生来の結びつきの尊さ、愛おしさを見る静かなる力作であります。

蛇足)
女性作家が傍聴の合間に見る映画はパゾリーニの『王女メディア』(1969)で、復讐心から我が子を殺す魔性の女の行状を描いた古代ギリシア悲劇「メディア」の映画化作品です。
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