シズヲ

ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!のシズヲのレビュー・感想・評価

3.7
『スパイダーバース』はビビッドでアート感の強いグラフィティのようだったけど、本作は厚塗りや線の質感が意図的に強調されているビジュアルである。ライトの光源や背景の輪郭など、線画の感触をわざと目立たせたタッチが面白い。敢えて均整の取れていない絵柄の躍動感も相まって、同様のアニメ作品とはまた違った“動くイラスト”感に溢れている。

本作は何だか“ミュータント・タートルズ:ホームカミング”感があるというか、タートルズのティーンエイジ性に大きく焦点が当てられているのが印象的。この作品におけるタートルズはカルチャーを愛し、コミュニティに憧れを抱き、好奇心旺盛でユーモラスに振る舞う“等身大の少年達”である。マイノリティであるが故に人間社会に帰属することが出来ない彼らが、その社会に受け入れられるまでの流れをポップに描いている。スプリンター先生が“保守的な保護者”として描かれていたり、またエイプリルも本作では“逸れ者の学生”であることも、そういったテーマ性を浮かび上がらせている。作中では様々なサブカルチャーが引用されているけど、『進撃の巨人』が重要な役割を担っていたのでフフってなった。あと搾乳されるタートルズで笑った。

M.O.P.やDe La Soul、DMXにA Tribe Called Questなど、全編に渡って90年代を起点としたヒップホップがフィーチャリングされているのも面白い。映画自体が一種のサウンドトラックめいてるうえ、ニューヨークという舞台設定が更にヒップホップの存在感を際立たせている。社会に帰属できない“アウトサイダー”として描かれるタートルズほかミュータント一同、ストリート感漂う黒人の少女としてリデザインされたエイプリルなど、登場人物達の多民族社会的な造形も何だか興味深い。特にアイス・キューブが声を当て、“スーパーフライ”というファンクな名を冠し、ミュータントによる革命を目的とする悪役には大分ニュアンスが籠もっている。前述の楽曲のチョイスやミュータントが直球でマイノリティとして扱われていることも含めて、本質的な部分でブラックカルチャーの映画っぽさがある。

尤も本作はそういった要素の掘り下げや洞察は簡素であり、終盤になると敵側との和解展開も含めて予定調和的に話が流れていく。もっと深みを出せそうな要素も、結局は分かりやすくこじんまりと落とし込まれる印象。暴力的な革命者となったマイノリティであるスーパーフライも本来なら“単なる悪役”として片付けるべきではない気がするし、やたら数の多いミュータント軍団はほぼ終盤のアクション要員めいている。とはいえテンポや作風を考えれば、ファミリー向け娯楽作としてはこれくらいスムーズな落とし所の方が丁度いいのも分かる。アクション面においても既存の傑作アニメ映画ほど突出して目を見張るシーンが無いのは惜しいし、もうちょっとタートルズが存分に暴れる下りがあってほしかった。ただ中盤のカーチェイスや終盤のリレーじみた総力戦などは好き。
シズヲ

シズヲ