あさ

福田村事件のあさのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.5
何から書いたら良いやら。「何のために生まれてきた」が骨の髄まで来た。ラストを見届けた後に見るビジュアルは何とも。星つけて評価するのもアンマリ良い気持ちしないけど、この映画を高く評価しなければ何を高く評価できるのか、と思う節もあり。

観ようとしてた回がほぼ満席で逃げ場なさそうで怖かったために時間を遅らせ、「まあ帰りにアステロイドシティとか観たら恐怖も中和されるかな」とか思ってたんだけど、全然中和したくなくてこの後は何も観ずに帰った。『ニトラム』(永遠に引き合いに出す)の類が本当にトラウマで苦手なんだけど、こればかりはしっかりと目を開けて観ないといけないと思えた。心が痛くて悔しくて虚しくて腹立たしくて、それでも目が離せなかった。今この事件がスクリーンで描かれたことが、せめてもの救いに思える。

教育を諦めた井浦新。報道を諦めない記者。何が悪いとかスゴイとかじゃない。諦めても、諦めなくても、どちらも血反吐が出るものね。「女の癖に記者、怪しい」と言われるアノ場面だけでは分からない程、彼女は茨の道で記者になっていようものなのに、上に迎合せず社会を変えようとしている。同じ時代に生まれてたら、どうなってたかなあと何度も思う節があった。利根川の辺りで精々絵を描けてたら大分幸せな方、教育なんぞ到底アクセス出来なかったでしょうけど、アクセスできても流石に極端な社会主義に想いを馳せてしまいそうな気持ちすらある。知識や倫理観をいかに身につけても、言論で社会はすぐには変わらないなら腐りそう、まあ今も世の中そんなに良かあないですけど。

関東大震災のシーンも物凄く怖かったのだけど、膨らんでいく流言が一番怖い。恐ろしい伏線だった。大きな災害が起こるとどうしてもフェイクが飛び交うし混乱するけど、信じる情報がほぼ人の言葉しかないものね。

そもそもの発端「朝鮮人は虐められてきたから、いつやり返すかわからない」という日本人の恐怖心から、もうね。そもそもの話すぎる。端的に戦争が最悪、で片付けたくなる話だけど、もう…。隣国との話はいつだってギスギスした所はあるけれど、歴史がある以上、私たち日本人はいつまでも忘れてはいけないし、無かったことにしちゃだめ。今はどうか落ち着いて、と言いたくなる瑛太も、どれだけ差別され虐げられてきたのか、その苦しみが分かるからこそ「落ち着いて」なんて本当は言えない。

もはや映画を観ていたのかすらわからない。なんかほんと…脚本も構成も、俳優も、全部、ほんと凄かったな。パンフレットが厚み凄そうで思わず買っちゃったのでユックリ読む…。
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