ルークシュポール

ロスト・キング 500年越しの運命のルークシュポールのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

評価が別れがちな人or実像が良くわかっていない人物や歴史創作好きに特におすすめ

リチャード3世友の会が、発掘以前もそれなりの規模で存在したことに驚き。フィリッパの調査にもこの会が大きく貢献していたし。

彼と似たような位置付けの人物、フランス史だとロベスピエールが思い浮かんだ。フランス革命を少しでも学んだ人の間では、彼は「血に飢えた冷血独裁者」ではないととっくに知られた上で評価が議論されているイメージがあったけど、あまり知らない人はいまだに上記のように見なしているとこの前知って驚いたので。
日本史だと誰なんだろう?明治以降だと戦争責任や周辺国との問題も絡んでくるし…

元夫ジョンの「なぜ皆誰かを神聖化するか極悪人にしたがるのか?良い人も悪い人もいないのに。マザーテレサはミルクの蓋を締め忘れたかもしれないし、チンギス・ハンだってゴミ拾いしたこともあっただろう」(うろ覚え)というセリフが一番頷けた
その前にフィリッパがジョンにリチャード3世肖像画の改変前後の比較画像を見せていたが、私には正直違いが全く分からなかった。ジョンも同じで、だからこそ上記の台詞に繋がったのかも。

リチャード3世とチューダー朝の双方の支持者のように、誰かを極端に神聖化するあまり敵対勢力を過度に貶める罠にははまらないように自戒したい。

フィリッパに塔の王子たちのことを尋ねられたリチャード3世が去っていく場面は、彼もまた完全無欠清廉潔白の善人ではなく彼女が嫌悪するようなことをやっていた(可能性もある)と示したのだろう。甥の殺害はどうであれ、中世の王であった以上は彼も何らかの汚れ仕事には関与しただろう。

主人公をはじめとするリチャーディアンも、チューダー朝寄りの主流派も、歴史人物の評価にルッキズムを持ち込むことに驚いた。フィリッパの墓探しの動機も「あの人は醜くない、背骨は曲がっておらず美しかったのではないか」だった。途中まで「不細工でも魅力的な人は存在しないと、イギリスの人々は皆思っているのか」と腹が立ったほど(言い過ぎは承知だが、私はフランスの革命家ダントンのファンなので)。だからこそ、掘り出された3世の曲がった背骨を見たフィリッパが「それでも彼は完璧だ」「背骨が歪んでたら性格も歪むというのか」と言うようになった意義が大きい。

最初は「リチャード3世を悪人に描いたシェイクスピアはけしからん」的論調だったのに、埋葬の儀式でたまたま会った俳優を称賛した場面を入れたのは、史実を明らかにした上で歴史創作も尊重しようという意志を感じた。シェイクスピアだって歴史創作であることには変わりはないのだが、文学研究のみならず歴史学分野でも未だに影響力が強いことに驚いた。 

想像で理想的リチャード3世が現れるのに違和感を抱いた感想が多かったのもびっくり。私は必ずしも病的幻覚ではなく、歴史好きがしばしば頭に抱くイメージが具現化したものと思ってすんなり受け入れられた。

私も歴史に埋もれて根拠に基づかないイメージのみで語られがちな歴史人物が好きなので、勇気づけられた。彼女は王族でも政治家でもない、著名な革命家の妻だが、それでも見つけられるかな

綿密な実証調査はもちろん必要だが、最後は勘が物を言うのは私自身の経験でもそう

もしかして、カサビアン「Ill Ray (the king)」のMVはこの話を元にしてる?彼らレスター出身だし