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フェイブルマンズのohassyのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.5
いや、よかった…
めちゃくちゃよかった…

僕のようなスピルバーグど真ん中世代の映画ファンにとって絶対に楽しめる映画であろうことは予想していたけれども、こんな気持ちになるとは全く思わなかった。

何なのスピルバーグ映画うますぎる。
そんな当たり前の感想をどの目線から言ってんだって言われるくらい語彙力を奪う、そんな作品。
頭から尻尾まで、全部好きです。

「こうして天才的な映画監督が出来上がりました」なんて内容では全くなくて、人は皆親兄弟や家族(あるいはそれに類する人)がいて、生活環境があって、さまざまな苦楽を経て、いつか自分なりの道を見つけて走り出す。
それを、自分の人生を語ることで伝えてくれる。
しかも人類史上最高の映画神・スピルバーグが。
これ以上に勇気をもらえることがこの世にあるだろうか?いやない(反語)

スピルバーグことフェイブルマンくんが、大きな影響を受ける出来事が作中に幾つか登場するのだけれど、そのどれもが短絡的な表現に終わっていないのが本当に感動する。

家族旅行の記録映像編集中に気づいてしまった母親の秘密。
子どもにとってはとても嫌な気分になってしまう事実ではあるけれど、クリエイターである彼は、編集の手を止めることができない。
なぜなら、そこに写っている母親こそが最高のショットなのだ。
悲しいことではあるけれど、最高傑作になってしまうのだ。
凡庸な作品で家族は喜んでいるけれど、ディレクターズカット版は見せられない。
映画の怖さと残酷さ、そしてそれを上回ってしまう快楽に気づいた少年は、映画から遠ざかってしまう。

母親の秘密を知らないまま、新居ではしゃぐ父と妹たちを記録する少年。
フィルム撮影ならではの無音表現のなかで、喜びの輪に入ることができない母親の表情をカメラは捉える。
妻を元気づけようと招き入れ、大袈裟にピアノを弾く素振りをして戯ける父の姿が本当に切ない。
そして決定的な時を迎え言い争う家族の中で、ひとり静かに家族の様子をファインダー越しに覗く気持ちで客観視する少年。
それは人ごととしての冷たい視線というよりは、映画というフィルターを通すことで自分に刺さる棘の痛みを穏やかにする行為だろう。
クリエイターとしてカメラを覗く行為にそういう効果があることは、僕も少なからず知っている。

そしてプロムの夜に上映された彼の映画によって英雄に祭り上げられたいじめっ子のリーダー・ローガンの、誰も予想しないあのリアクション。
少年のいちエピソードが、映画の持つ力の強大さと怖さまでも実感させる。
(絶対言うなよと言われたエピソードを全世界にバラしちゃうスピルバーグ)

細かいスピルバーグネタももちろん楽しいけれど、何より全てが複雑で重層的で意外性に満ちて、それでいてめちゃくちゃ分かりやすい。
そんな映画はそうあるもんじゃない。
そして何よりあのラスト!
シナリオの段階で、よくあれで終われるって思えたな!
でもあれ以上の終わり方って絶対ないよな!
しかも気の利いた遊びまで入れちゃってさ!

スピルバーグ、映画うまいな!
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