小屋

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版の小屋のレビュー・感想・評価

4.6
 この作品は群像劇なので、最初目まぐるしく入れ替わる登場人物たちに困惑したが、だんだん慣れてくると登場人物のおもしろさがわかってきて、とても楽しめた。
モーリーの旦那のボンボンが、最初むかつくやつかなと思ったけどなんだかんだ1番純粋で好きなキャラだった。
台湾人のエネルギーを感じられる、登場人物ごちゃごちゃ系コメディだった笑

※以下ネタバレ

 色々な人の視点から、台湾の発展とそれにより失ったものを浮かび上げるこの作品の手法は他の作品では摂取できないものだった。その視点が、個人の「恋愛関係」等の誰でも共有できる感覚から見せている点を上手いと思う。『ビックリボウリスキ』のような、発展による心の喪失、それを台湾現代社会と結びつけて、コメディで描く手法が使われている。「なんで上手くいかなくなったんだろう、こんなに生活は良くなったのに」という悩みを現代社会に生きる僕らは常に感じており、そこを鋭く突く作品でもあると感じた。
 『ヤンヤン』も同時に見たんだけど、エドワード・ヤンは鏡とか影のシルエットと言った、登場人物をある意味間接的に写す場面で本音を引き出す演出をしていて、この作品のラストでは特に際立っていると思う。表情やそれに宿る感情というものは外に見せるための“演技”であり、その人物の本質(この作品でいう“情”というものかもしれない)はそれが行われていない場所でしか外に出て来ないものだ、と言っているように感じた。これはさらにメタ的な視点に移すこともできる。映画というメディアはそもそも全て演技であり、それをわかってみんな見ている。だからこそ演技をしない(表情を映さずに作為的な感情を付与しない)場面で描かれるものこそ、この作品の“本音”なのだと思った。
 正直この作品を見るまで、エドワード・ヤンとホウ・シャオシェンの作品もわかっていないくらいにわかだったけど、確固たる作風を持っている作家であり、こんなすごい作品を撮っている作家を知らなかったんだと思って嬉しくなった!
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