やまけ

ソングス・フォー・ドレラ 4Kレストア版のやまけのレビュー・感想・評価

5.0
装飾を廃したミニマルなステージで撮影された、リードとケイル2人きりによるライブ演奏。VU時代の決別以来十数年ぶりの共演ということもあり、重苦しい緊張感が終始場を支配している。

しきりに目線を送って意思疎通を図ろうとするケイルと、それを拒絶するかのように歌唱と演奏に集中する(引きこもる、と換言してもよい)リードの関係性が特に印象的だった。

そのすれ違いは、ファクトリーで苦楽を共にしたであろうウォーホルの死をもってしても修復できない深い軋轢の存在を感じさせる。

ただし、そうした緊張感の中であっても2人の演奏と歌唱は冴え渡っており、2種類ないし3種類の楽器だけで構成されているとは思えない、厚みのあるサウンドを響かせている。

今回のレストア版において特筆したいのは、林かんな氏の正鵠を射た訳詞である。

とりわけ「Hello It's Me」におけるリードからウォーホルへの語りかけは珠玉の完成度だといえよう。
後悔と謝罪、日記への反感、そして最終行の突き放すような哀別の言葉まで、そのどれもが完璧なニュアンスで訳されている。

ごく個人的な感想になるが、この訳詞が見られただけで鑑賞料金以上のものを得られたな、という感覚さえあった。

劇場上映に向けて動いてくださった皆さん、そして林さん、ありがとうございます。
やまけ

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