一人旅

ナイン・マンスの一人旅のレビュー・感想・評価

ナイン・マンス(1976年製作の映画)
4.0
メーサーロシュ・マールタ監督作。

前作『アダプション/ある母と娘の記録』(1975)では年の離れた女性同士の友愛を映したハンガリーの女性監督:メーサーロシュ・マールタが、自立心の強い女性の人生の彷徨を描き出した力作で、ハンガリー女優のリリ・モノリが驚愕の熱演を魅せています。

ハンガリー郊外の田舎町にある工場で働き始めたヒロイン:ユリは、工場の主任を務める年上の男性:ヤーノシュにアプローチされ、始めは戸惑いつつも相思相愛となるが、やがて夫婦の在り方に関する考え方の相違が二人の将来に暗い影を落としてゆく…という人間ドラマで、前夫との間に5歳の一人息子がいるヒロインと同じく離婚歴のある同僚男性との情愛と破綻の軌跡を淡々と見つめていきます。

子供を持ちながら外で働くことを切望している、当時としては進んだ女性であるヒロインと、“妻は家で家庭を守るべき”と考える男性の夫婦の在り方の方向性の相違が次第に鮮明化していく“社会派+女性ドラマ”であり、自分が望むどおりの生き方を否定されたヒロインの孤独と苦悩を通じて、現代ハンガリーにおける女性の抑圧された性を浮かび上がらせています。

人一倍自立心の強い女性と彼女を束縛する家父長的な男性との関係性の変容を、70年代ハンガリーの閉塞的な空気感覚の中に静謐に描き切った女性映画の名篇で、主演のリリ・モノリによる映画(フィクション)の域を超越した終盤の演技は新たな生命を宿し産む女性の潜在的な逞しさ、強さを象徴しています。
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