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ゴジラ-1.0のこどものレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.0
4ヶ月前、特報が出た時から楽しみにしていました。戦後まもない日本、家屋がゴジラのしっぽで薙ぎ払われていく凄まじい迫力の映像を、恐怖のあまり少し涙を浮かべながら見ていました。それにしても、ひどく辛い映画を創ったものだと。

その実は、神木隆之介演じる特攻部隊から逃げ果せたパイロット敷島を中心とする、「戦争に取り残された」人々の想いや葛藤を描こうとする人間ドラマでした。
命を散らすことで、命の価値を証明する。という当時の日本人に染み付いた異常な価値観を破壊し、再構築し、皆が明日を生きることを肯定できるようになるまでを描く。はずなのですが……

主軸とするはずの人間ドラマの出来があまり納得いくものではなく残念だったというのが正直な感想です。
特に敷島の心情変化に置いてけぼりにされている感覚が強くありました。彼の心の中には常に浜辺美波演じる典子が居て、心境が変化するタイミングではいつも典子との絡みがあります。
敷島が戦時中の呪縛から離れ、新たな人生を願うキッカケになる典子との大切なシーンがあるのですが、そのシーンも些かお粗末だったと云わざるを得ません。浜辺の芝居には「包容力」や「癒し」など、敷島の心境変化に必要な要素が欠落しており、翌朝になり突然心持ちが大きく変化した敷島に違和感を覚えてしまいました。朝、煮た大根を子供に与える典子の姿を見て、敷島は新たな人生を生きることを決意するのですが、芝居が良くないせいか、煮た野菜が「大根」であることに作為さえ感じてしまいました。

話の大筋はどこも違えていないから、観られることには観られるのですが、そういった具合に細かいところが兎に角気になる。吹っ飛んだ浜辺の衣装も顔も綺麗すぎる、とかそんな具合に。

さて、ここまで気になるところばかり書いてしまいましたが、肝心のゴジラ絡みの描写は欠点を補って余るほど素晴らしいものでした。復興まもない日本を蹂躙するゴジラのサドっぷりは凄まじく、『シン・ゴジラ』よりも凶暴で残忍、その造形も相まって、もっとも暴力的なゴジラだったかもしれません。どんな事象も、圧倒的に突き詰めた先には神秘性が垣間見れるように、本作のゴジラの暴力性は正に神秘的といって過言ではありません。特にゴジラを象徴する技である放射熱線の描写は、これまでのゴジラが熱線を振り回す切断系の攻撃であったのに対して、しっぽの先から徐々に力を貯めて一気に放つ「超電磁砲」的な攻撃に刷新されていたのが非常に印象的で、その圧倒的な破壊力の前には絶望させられました。
そんなゴジラに、GHQに武器を奪われて丸腰の、例の在来線爆弾すら使えない戦後の日本が知恵を搾って立ち向かっていく様には、やはり胸を熱くさせられます。ゴジラのテーマがかかるタイミングもバッチリで、化け物に立ち向かう健気で精魂逞しい日本人の姿に掛かり熱い涙を誘われました。

ただ、ラストのB級映画の様な陳腐な描写は完全に蛇足ではなかったでしょうか。
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