おりひめ

ゴジラ-1.0のおりひめのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

物語 10点
配役 10点
演出 9点
映像 10点
音楽 10点
---合計49点---

普段なら絶対観ない題材を、神木くんと美波ちゃんに釣られて観に行った。(※『らんまん』の影響です笑。)

一言で表現すれば、ゴジラという怪物を通して描かれる第二次世界大戦の戦中と戦後。そしてその時代を生きた人々の人間ドラマ。怪物に蹂躙されるパニック映画を想像していたら、(確かにその要素も十分にあったが、それだけでなく) 「戦後を迎えられなかった」人々が、ゴジラとの戦いを通して「戦争を終わらせる」話だった。中でも主人公・敷島を含めて作品の中心として描かれる当時の復員兵の心情や、海神作戦に対する思いが、ドキュメンタリー等で聞いたことのある実際の復員兵の言葉そのもので胸を打たれた。そしてそれらがゴジラとの戦いにちゃんと繋がっていて、フィクションとノンフィクションの融合が見事だった。

特攻の命令にも仲間の危機にも怯えるばかりで戦争とゴジラの襲撃を生き延びた神木隆之介さん演じる敷島。彼の怯えも結果的に生き残ったことも決して間違っていないのに、時代や状況が彼を許さない。彼が理不尽に遭ったり、罪の意識に苛まれ悪夢に魘される日々を過ごす序盤の展開は見ていてとても辛かった。そんな中での浜辺美波さん演じる典子や、明子、新生丸の仲間達との新しい出会いは敷島を戦後へ導く希望に見えたし、実際に彼は未来へ踏み出そうとする。しかしそこに、再びゴジラの脅威が襲いかかる。その時、彼の瞳に復讐の炎が宿った瞬間からの展開に引き込まれたし、何と言っても神木くんの演技が素晴らしかった。

橘(演:青木崇高さん)とのやり取りは終始緊張感があり、最悪の展開も予想したが、その決着はまさに「生きて、抗え。」だった。ここの展開、伏線回収、決着が本当に見事。何度観ても感動する。
敷島がゴジラに「特攻」して脱出し、ゴジラが崩壊していく時、作戦に参加した全ての人達が敬礼している場面も物凄く心に残った。
登場時から明るく場を和ませ、銀座のゴジラ襲撃後も終盤の絶望的な展開の中でも敷島を思いやる新生丸の面々(演:佐々木蔵之介さん、吉岡秀隆さん、山田裕貴さん)に救われた。敷島と澄子(演:安藤サクラさん)の関係性と変化も、それぞれの「戦後」を描く上で適度な尺で描かれていて良かった。
それから個人的な大きな発見は、駆逐艦「雪風」元艦長で、海神作戦の実質的な総司令官を演じられた田中美央さん!!恥ずかしながら今作を鑑賞するまで知らない役者さんだったのだが、すっかりファンになった。かつての帝国軍人らしい威厳と統率力、人望ある人柄を感じさせる圧巻の演技で、作品に説得力を与えていた。
こうして振り返ると、なんとも豪華な役者陣だなぁ……。

惜しい点を挙げると、敷島と典子が惹かれ合う描写があまり無く、殆ど状況で察するしかなかったのが些か残念だった。数分尺を伸ばして、1シーンでも典子が敷島に心を寄せるきっかけみたいなものが描かれていれば、更に良かったと思う。
その他、東京襲撃を知っていながら何故先に逃げなかったのかとか、敷島は黒い雨をまともに浴びてしまったが大丈夫なのかとか、気になる部分は所々にある。
そして気になると言えばラストの2シーン。
まず、敷島と奇跡的に生還した典子の再会シーンだが、典子の首元に妙な痣?があるのが気になる……ネットの情報だと、ゴジラの熱線を浴びた影響説と、彼女がゴジラの細胞を取り込んだ説がある様子。彼女が今後怪獣化するなんて展開は耐えられないが、被曝の影響を受けることはあるのだろうか。これも「生きて、抗え。」なのだろうか。
それから最後の最後のカットは、ゴジラの破片が再活性化している不穏さも感じるが、こんな壮大に、感動的に倒しておいて復活なんて有り得るのだろうか。嫌だよ私は。本編台無しじゃないの。ということで私の希望も挟まるが、ゴジラを題材とした作品は幾つも存在するので、別の世界線に生まれ変わったと思うことにする。
上記のように、続編を匂わせる不穏な伏線があるのが、個人的には不満。
或いは監督は、ゴジラを先の大戦そのものに見立てて、反戦への願いとメッセージをこの二つの描写に込めたのかもしれない。その上での「生きて、抗え。」ということなのだろうか。
いくらご都合主義と言われようと、私はハッピーエンドな結末を求めているしこれで終わらせて欲しい。敷島はやっと前に進めるし、彼の未来は明るい。典子も、澄子も、橘も。それで良いじゃない。

映像は日本の作品として初のアカデミー賞視聴効果賞受賞も納得の大迫力。音楽はゴジラ定番の楽曲と新たに作曲された曲を上手く使い熟していて違和感なく、こちらも申し分無い。役者陣の演技も文句の付けようなく、流石は国内外の映画賞を総嘗めにしただけある、全方位に完璧な仕上がりである。

単純にゴジラが怖くて、神木くんと美波ちゃんが出ていなかったら観なかったと思うので、まさに二人が出会わせてくれた作品。Blu-ray買います。


※2023年11月3日と5日にそれぞれIMAX版を、12月14日に4DX SCREEN版を鑑賞。本作は特殊上映で観てこそだ。特に初体験の4DX SCREENは本当に楽しかった!!


【ゴジラ-1.0/C】
2024年1月13日に鑑賞。

モノクロになってより戦中戦後の臨場感が増した。単純にカラー映像を白黒にしたのではない繊細な拘りが感じられる、記録映画のような質感が良かった。間違いなく白黒映像なのに、殺気立った敷島や海神作戦説明時の野田の目が血走って見えて、彼らの演技力に唸らされる。また、映像から得られる情報が減った分、今迄聞き取れなかった台詞が聞き取れたり、音の効果が強く感じられるようになった。通常上映でこれなら、特殊上映では一体どれ程のものだろうか。
一部で気になるという意見を耳にしていたちょっとオーバー気味かもしれない演技も、良い意味で昭和っぽさが増したお陰で違和感が軽減されているのではないだろうか。(わたしは元々気になっていなかったが。)そのせいか、4回目なのに随所で泣きそうになってしまった。やはり傑作。
おりひめ

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